カラダから、はじまる。
「ほら、奢ってやるから……なんでも好きなのを食え」
本宮は腕を組んで堂々と言い放った。
「……って、ここ吉牛じゃないのっ⁉︎」
わたしはガラス張りになった店内を見て叫んだ。
「仕方ないだろ?こんな時間なんだから。
それに、おれは手早く食って戻りたいんだ」
確かに、ランチタイムを過ぎてしまったこんな中途半端な時間帯では、そうかもしれないが。
戸川たちと一緒のときは、もっとそれなりのお店だったのにっ!
そもそも、金融庁の入った霞ヶ関コモンゲートから、一歩も出てないじゃんよ⁉︎
……こいつ、やっぱりわたしのことを「女」だとは微塵も思ってないなぁ?
「ほら、店に入るぜ。そっちだって早く戻らないと、マジで今夜も帰れなくなるぞ」
本宮に促されて、渋々ではあるがドアの向こう側へ足を踏み入れる。
そして、カウンターの空いている席に並んで座ると、
「鰻重みそ汁セットの三枚盛で」
と、わたしはオーダーした。
ここでは高額のメニューかもしれないが、それでも二千円でお釣りがくる。彼の収入からすれば安いものだ(と思う)。
「……遠慮のカケラもねえヤツだな」
本宮は、げっ、という顔をしながら、牛すき鍋膳を大盛でオーダーした。
お互い食べられるときにしっかり摂っておかなければならない身の上だ。今夜はいつ食べられるかわからない。