カラダから、はじまる。
わたしの前に鰻重の三枚盛が置かれる。
途端に、甘辛い香ばしい匂いが辺りに漂った。
心の中で舌舐めずりして山椒を振りかけていたら、「鰻重、美味そうだな」と本宮が恨めしそうに見てきた。
……同じものを頼めばよかったのに。
わたしはため息を一つ吐いてから、仕方なく店員さんからお皿をもらって、一盛分を分けてやる。
本宮は「おっ、サンキュ。でも、くれるんだったら、牛すき鍋を並盛にすればよかったな」とごちた。「じゃあ、鰻重返して」と言うと、「イヤだ」と速攻で断られた。
すると、「おれの牛すき鍋も分けてやるよ」と本宮が言ってきた。しかし、すでに箸をつけたあとだったので、わたしは「イヤよ」と速攻で断った。
結局、本宮はがんばって全部食べるようだ。
どうやら、彼の中には「もったいないおばけ」が存在するらしい。
「もう二十代のようにはいかないんだからさ。
……無理しちゃダメよ?」
わたしはそんな本宮を見て、半ば呆れた口調で言った。
「夏にしたっていうお見合いだって、その後おつき合いを続けてるんでしょ?
……そろそろ、式の日取りとか決める時期なんじゃないの?」