カラダから、はじまる。

本宮は四国の高知の出身で、父親は県庁に勤める地方公務員だそうだ。
全国的に有名な関西の名門の中高一貫男子校を経てT大の文科一類(法学部)に進学した彼は、国家公務員一種試験に合格(パス)し、卒業後は総合職(キャリア)として金融庁に入庁した。

彼がこの先なにを目指しているのかはまったく知らないが、東証一部上場企業の証券会社の重役を父に持つ田中とは違って、本宮にこれといった「後ろ盾」がないのは、残念ながら事実だ。

ゆえに、衆議院議員を母に持つ、華道家元の娘との縁談は、願ってもない「御縁」だろう。

たとえ、相手の「お嬢サマ」に多少思うところがあるとしても、飛びつくのはわからなくもない。


「……そうだな、向こうからはいつぐらいがいいか、せっつかれてるよ」

本宮は、鰻重への箸を止めずに言った。

「やっぱ、鰻重美味(うま)いな。
そういえばさ、鰻重のタレの味って、当たり外れないよなー。おれもこっちにすればよかった」

「お相手の『お嬢サマ』、なかなか『個性的』なんですって? 次期家元なのに、まるでやる気がないらしいじゃないの?」

本宮の箸がひたり、と止まった。

「だれから聞いた?」

……あら、怖い。

「アンタの『秘書』の戸川からよ。山岸とは同期だから、うちの課に寄ったときによくウワサ話して帰るのよ」

「あいつ……道理で、使いに出したらなかなか帰ってこないはずだ」

本宮は顔を(しか)めた。

戸川(あの子)に喋るな、と言っても無理だわ。
一応、『ほかでべらべら喋るんじゃないの』って注意はしたけどね。言いふらされて都合の悪いことは、たとえ世間話のつもりでも言わない方が賢明ね」

わたしはそう言って、熱いお茶を一口飲んだ。

「でも、あの子がなにかと『情報収集』してくれてる面では、助かってるんじゃないの?」

だから、そんなに強いことも言えないのだろう。

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