その身体に触れたら、負け ~いじわる貴公子は一途な婚約者~ *10/26番外編
『もう決めた事だ。ほとぼりが冷めれば、あれにも公爵家の娘として婚姻の話が持ち上がるかもしれん。あれにいま必要なのは公爵家の力だ。わきまえたまえ』

 彼女を手に入れ守るために、宰相補佐官の任を引き受けたはずだった。イリストア卿のような男に横槍を入れられることのない、地位と権力があればと。サイラスの申し出は彼にとっても都合が良かったのだ。

 ところが現実はほど遠く、自分は彼女を守るどころか追いつめた。

 だがフレッドはこのままで終わる気はなかった。私兵の目的も不明のままであったし、他にも気になることがあったからだ。

「ということは、摘発できそうか」

 フレッドは声をひそめ、侍従を目で下がらせた。

「ああ。またしてもお前のお手柄だな。オリヴィアに対する執着か、それともイリストア卿に対する執念か……お前を敵に回すのはつくづく怖いと思い知った」

 サイラスが忍び笑いをする。フレッドも彼の向かいの椅子に腰を下ろした。

「イリストア卿をつついたら、簡単にわかったよ。あの麻薬はここ数年こっちの闇市で出回っているものだった。ああ、彼がオリヴィアに使ったのは純度も低いもので、しかも微量だった。あの一度きりなら中毒性は低いから安心していい。よくわかったな」
「麻薬だとは思いもしなかったよ。ただ彼女が、あの男が使った薬に覚えがあると教えてくれたからね」

 フレッドは言葉を濁したが、彼女は過去にリデリアからの不法侵入者に襲われかけたときも、同じ薬を使用されていた。そのことが調査のきっかけだった。

 彼女は今どうしているのだろう。会いたくて気が触れそうだ。
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