その身体に触れたら、負け ~いじわる貴公子は一途な婚約者~ *10/26番外編
「やっ……! フレッド様、離して」
唇は耳朶から首筋に降りていき、何度もそこに押し当てられる。
その熱さに、思考が奪われそうになる。きつく吸いつかれた首筋にかすかな痛みが走る。
「お戯れはおやめください……!」
「戯れ?」
フレッドの声が一段と鋭く、地を這うように低くなった。
オリヴィアの胸の前にあったはずの腕が片方外れ、身体がふわりと浮く。
フレッドが彼女の膝裏をすくい上げ、横抱きに抱え上げたのだと理解したときには、すでに彼はずんずんと部屋の奥に足を進めていた。
「降ろして! 降ろしてください!」
「嫌だ。降ろしたら逃げるだろう?」
「何をなさるのです」
「ずっと待っていたんだ。ずっと、きみが僕を受け入れてくれるのを。待ってばかりで、もう気が狂いそうだ」
吐き捨てるように言って、彼が乱れた髪を振る。
こんな彼は知らない。焦った口調も、余裕のない表情も、見たことがない。
薄く笑ったことなら何度もある。だけどそれだって、こんなしんとした冷たさはなかった。その心に触れるようになってからは、意地の悪いことを言われても、その奥には優しさがあった。
まるで別人のようだった。
唇は耳朶から首筋に降りていき、何度もそこに押し当てられる。
その熱さに、思考が奪われそうになる。きつく吸いつかれた首筋にかすかな痛みが走る。
「お戯れはおやめください……!」
「戯れ?」
フレッドの声が一段と鋭く、地を這うように低くなった。
オリヴィアの胸の前にあったはずの腕が片方外れ、身体がふわりと浮く。
フレッドが彼女の膝裏をすくい上げ、横抱きに抱え上げたのだと理解したときには、すでに彼はずんずんと部屋の奥に足を進めていた。
「降ろして! 降ろしてください!」
「嫌だ。降ろしたら逃げるだろう?」
「何をなさるのです」
「ずっと待っていたんだ。ずっと、きみが僕を受け入れてくれるのを。待ってばかりで、もう気が狂いそうだ」
吐き捨てるように言って、彼が乱れた髪を振る。
こんな彼は知らない。焦った口調も、余裕のない表情も、見たことがない。
薄く笑ったことなら何度もある。だけどそれだって、こんなしんとした冷たさはなかった。その心に触れるようになってからは、意地の悪いことを言われても、その奥には優しさがあった。
まるで別人のようだった。