その身体に触れたら、負け ~いじわる貴公子は一途な婚約者~ *10/26番外編
「そう、鈍いの。だから……あなたが教えてくれなきゃ嫌です」

 彼女は微笑みながら手のひらを裏向けて、彼の指に触れた。二人の指が絡まる。

「いくらでも僕が教えるよ。……きみが赦してくれるなら」

 オリヴィアは振り返った彼を見上げた。

「さっきは、……怖かったの」

 彼が苦渋に満ちた表情を浮かべた。

「フレッド様が知らない人に見えて、動けなかった」
「ごめん」
「だから、さっきの記憶を上書きして。怖くないものだと、フレッド様に身を預けても大丈夫なのだと、教えて。あなたの妻にして、今すぐ」

 オリヴィアの細い腕の中で、彼の身体が強張る。

 貴族令嬢としてあるべき振る舞いではないことはわかっている。何より、まだ怖いと怯える感情がこびりついているけど。

「いや、それはしないよ」
「今でなきゃ、嫌です。そうでなきゃ求婚も受けません」
「まったくきみは、強情だな……。震えているくせに、そんなことを言わないで。さっきは僕がどうかしていたんだ」

 なだめすかすように、彼がオリヴィアの腕を離そうとする。彼女はますますぎゅっとしがみつき、かぶりを振った。
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