その身体に触れたら、負け ~いじわる貴公子は一途な婚約者~ *10/26番外編
「コーンウェル公爵家に近づくためかと思っていました」
「それもある。確かに宰相家と懇意になれば、国境付近の警備を強化してもらえるのではないかという打算もあった。だがそれだけじゃない」

 ラッセルが軽く口の端を上げる。フレッドは怪訝な視線を返した。

「君の評判は聞いていた。君は女性への関心が薄く、綺麗なご婦人も君の前ならけんもほろろだとね」

 そこでラッセルが薄暗い中でもはっきりとわかるほど、にやりと笑った。

「娘は家族以外の男には近寄りたがらない。だがいずれは誰かの庇護を得なければ、またあのような目に遭わないとも限らない。だから君ならちょうど良かった」

 フレッドは言葉につまった。確かにオリヴィアに出会う前の自分はそうだった。ただ一人に溺れるなど考えもしなかった。

「だが、違ったようだな。君はあれを守れるのか?」

 難しい問いだった。
 婚約破棄を申し渡されたとき、自分は「彼女は僕が守る」とラッセルに訴えた。あのときも今も、その決意に変わりはない。

 だが今は、罪を犯してまで彼女を守ってきた父親の覚悟を、その重みを知ってしまっている。

 その上で、自分はこの問いに答えなければならなかった。
< 135 / 182 >

この作品をシェア

pagetop