その身体に触れたら、負け ~いじわる貴公子は一途な婚約者~ *10/26番外編
フレッドが踊っている。あのたっぷりと裾の膨らんだ薄桃色のドレスはアイリーンだ。自分には色もラインも似合わないものだけど、彼女が着ると愛らしく見える。
ダンスにしてはずいぶん距離が近いんじゃないだろうか。ここからでは、彼の笑みが薄い笑みなのか、それとも本心からのものなのか判別がつかない。けれど親密そうな雰囲気に気が滅入りそうになる。
不意にフレッドと目が合って、彼女はそそくさと視線を外した。壁際からじっと二人を見ている自分が、まるで粗探しをしているように思えて、自分自身に嫌気が差す。
気分をかえようと、オリヴィアは広間を出てテラスから庭園へ足を踏み入れた。
十一月の午後の空気は冷たく乾いており、オリヴィアは腕をさする。
春夏には薔薇が埋め尽くしていた庭園も、今はサルビアやゼラニウムといった可憐な花々がさまざまに彩りを添えている。オリヴィアはその空気を深く吸いこみながら歩く。ひとけはなく、奥へ進むにつれて静けさが色濃くあたりを満たした。
次にフレッドに会うのは、年が明けて次の社交シーズンが始まってからだろうか。
もうあまり会う機会もないというのに、まだこの婚約を解消する決心がつかない。それどころか彼の反応に一喜一憂するなんてどうかしている。
領地で「負けたくはない」と言った姿が、アイリーンと踊るさっきの彼の姿と重なり、胸が引きつれる。
触れたらいいだけ、それだけで彼を解放できるのに。
「ちょうど良かった、オリヴィア嬢。あなたとゆっくり話す機会が欲しいと思っていたんですよ」
はっと振り返ると、歪んだ形に笑う顔が思いがけず彼女のすぐ近くにあった。
「……イリストア卿」
さあっと顔が青ざめるのが自分でもわかった。
ダンスにしてはずいぶん距離が近いんじゃないだろうか。ここからでは、彼の笑みが薄い笑みなのか、それとも本心からのものなのか判別がつかない。けれど親密そうな雰囲気に気が滅入りそうになる。
不意にフレッドと目が合って、彼女はそそくさと視線を外した。壁際からじっと二人を見ている自分が、まるで粗探しをしているように思えて、自分自身に嫌気が差す。
気分をかえようと、オリヴィアは広間を出てテラスから庭園へ足を踏み入れた。
十一月の午後の空気は冷たく乾いており、オリヴィアは腕をさする。
春夏には薔薇が埋め尽くしていた庭園も、今はサルビアやゼラニウムといった可憐な花々がさまざまに彩りを添えている。オリヴィアはその空気を深く吸いこみながら歩く。ひとけはなく、奥へ進むにつれて静けさが色濃くあたりを満たした。
次にフレッドに会うのは、年が明けて次の社交シーズンが始まってからだろうか。
もうあまり会う機会もないというのに、まだこの婚約を解消する決心がつかない。それどころか彼の反応に一喜一憂するなんてどうかしている。
領地で「負けたくはない」と言った姿が、アイリーンと踊るさっきの彼の姿と重なり、胸が引きつれる。
触れたらいいだけ、それだけで彼を解放できるのに。
「ちょうど良かった、オリヴィア嬢。あなたとゆっくり話す機会が欲しいと思っていたんですよ」
はっと振り返ると、歪んだ形に笑う顔が思いがけず彼女のすぐ近くにあった。
「……イリストア卿」
さあっと顔が青ざめるのが自分でもわかった。