その身体に触れたら、負け ~いじわる貴公子は一途な婚約者~ *10/26番外編
公爵家を辞す頃にはすっかり夜も更けていた。フレッドが馭者に何事か小声で指示するのを、サイラスたちと挨拶を交わしながら待つ。いくらもしない内にフレッドが手を差しだしてきて、二人は向かい合わせに馬車に乗りこんだ。
車輪の音が夜の静かな道に響く。
「疲れてない?」
「楽しかったですわ。良い友人をお持ちですのね。少し羨ましくなりました」
何度も赤面させられたものの、フレッドの友人はからりと気持ちの良い人物だった。リリアナの言動も小気味良く、親しみを覚えるものだった。
「もう付き合いも長いからね。あの二人には気を使わなくていいんだ」
「それに、フレッド様のことをたくさん知りました」
「あれは……ろくなものじゃなかったと思うけど」
フレッドが自嘲のまじった苦笑を漏らす。
「騎士にはならなかったことも?」
「うん、騎士にならなかったことも」
「どうして、と聞いてもいいですか?」
「大したことじゃないよ。出来のいい兄さんと比べられることに我慢できなくなっただけだ。法律の世界は案外面白かったし、サイラスのおかげでこうして新しい道もできた。もう今は吹っ切れてるよ」
嘘ではないのだろう。だけどそう言った彼の目が少し淋しげに見えて、もしかしたら嫌なことを思い出させてしまったのではとオリヴィアは気を揉んだ。
車輪の音が夜の静かな道に響く。
「疲れてない?」
「楽しかったですわ。良い友人をお持ちですのね。少し羨ましくなりました」
何度も赤面させられたものの、フレッドの友人はからりと気持ちの良い人物だった。リリアナの言動も小気味良く、親しみを覚えるものだった。
「もう付き合いも長いからね。あの二人には気を使わなくていいんだ」
「それに、フレッド様のことをたくさん知りました」
「あれは……ろくなものじゃなかったと思うけど」
フレッドが自嘲のまじった苦笑を漏らす。
「騎士にはならなかったことも?」
「うん、騎士にならなかったことも」
「どうして、と聞いてもいいですか?」
「大したことじゃないよ。出来のいい兄さんと比べられることに我慢できなくなっただけだ。法律の世界は案外面白かったし、サイラスのおかげでこうして新しい道もできた。もう今は吹っ切れてるよ」
嘘ではないのだろう。だけどそう言った彼の目が少し淋しげに見えて、もしかしたら嫌なことを思い出させてしまったのではとオリヴィアは気を揉んだ。