その身体に触れたら、負け ~いじわる貴公子は一途な婚約者~ *10/26番外編
 彼はさりげなく噂をすり替えてくれたけど、「氷の瞳」が良い意味をもつ呼ばれ方でないことはわかっている。さっきもこれ見よがしに陰口を叩かれたところなのだ。

 お高くとまっているだの、自分の美貌を鼻にかけているだの。果ては心がないだのとまで言われたこともある。気遣われても、困惑するだけだ。

「そのようなお世辞は不要です」
「これは手強いな。心からそう思っていますよ」

 拒絶をあからさまにしても、フレッドは一向にこたえる様子がないどころか軽く笑い声すらあげた。

「貴方はこの結婚をどう思っておられるのですか?」
「光栄ですよ。氷が溶けたらどうなるのか、見てみたいものです」

 間髪入れずに答えられ、彼女は押し黙った。どうにも本心が見えない。薄い笑みのせいだろうか。

 彼も本当は彼女との結婚など本意ではないのかもしれない。

 どうして口づけなんかしたのかはわからないしわかりたくもないけど──この結婚が、彼にとっても嫌なものでしかないのなら。

「この結婚にあたって、一つお願いがあります」
「妻のお願いくらい、可愛いものですよ。何でしょう」

 オリヴィアは中央に植えられたプラタナスの木まで来ると、その幹に片手を置いた。

 彼の目を見る。オリヴィアはもう一方の手を胸において、口を開いた。


「私との間に、子供を望まないでください」
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