その身体に触れたら、負け ~いじわる貴公子は一途な婚約者~ *10/26番外編
 視察後ほどなくして、父親が王都に呼ばれた。それ以来、父親の表情がますます険しくなった。
 フリークスの私兵が最近になって再編成された。父親の従者が頻繁に使いに出るようになり、弟のアランが寄宿学校の休暇時期を前に呼び戻された。

 フレッドとも連絡が取れなくなった。

 季節は春めいてきたのに、フリークス領内だけはまだ冬のさなかに残されたかのようだった。次の社交シーズンの開始を前に、屋敷の誰もが不穏な雰囲気を感じ取ってはいた。

 けれどまさかこんな内容だとは思いもよらなかった。

「今日限りで、辺境伯の爵位を返上することになった」

 オリヴィアはアランとともに、父親の宣告に色を失った。

「私は罪を償わなければならない。この領地はしばらく、王都から派遣される者の管理下に置かれる。家が取り潰されるわけではない。アラン、寄宿学校を卒業した後にお前が爵位とこの屋敷を取り戻せ」

 父親はそう淡々と告げると、話は終わりだとばかりに書物机から立ち上がった。

「まさかそんな、お父様が罪を犯すなんて何かの間違いでは? 誰かを庇ってらっしゃるの? それとも、誰かに嵌められたとか……!」

 父親が、静かに首を振る。

「騙されたのでも、身代わりになったのでもない。私は私の判断で、罪を犯した」
「どんな罪を」

 震える声で尋ねるも、その後が続かない。
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