その身体に触れたら、負け ~いじわる貴公子は一途な婚約者~ *10/26番外編
 このままここにいても、ただ好奇の視線にさらされて突っ立っているしかない。

 そう思ったらずんと足が重くなった。

 オリヴィアは笑顔でグレアム公と別れ、広間を出て行こうとする。ところが聞き覚えのある足音に足が動かなくなった。


 澄んだ空色の瞳も栗色の髪も、低く柔らかな声も、何もかもが彼女をその場に縫い止める。


「久しぶりだね、オリヴィア」

 視察の日から、約半年ぶりの再会だった。

「……ごぶさたしております、フレッド様」

 オリヴィアは微笑んだ。意識するまもなくじわりと眦が滲んだけれど、瞬きを繰り返してこらえる。こんなところでみっともなく泣いたら、この人を困らせる。


 彼の唇が手袋越しに手の甲に押し当てられる。その一瞬、時間が止まったように思った。
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