その身体に触れたら、負け ~いじわる貴公子は一途な婚約者~ *10/26番外編
「お元気でいらっしゃいますか? きちんと寝ておられますか?」

 フレッドが自嘲めいた笑みを零す。疲れのにじむ笑顔だ。目の下にクマもある。

「大事なものを取り上げられてしまってね。取り戻すために駆けずり回っている。きみは?」
「それはお気の毒に……。早く戻ると良いですね。私はおじ様たちのおかげで、元気にしております」

 フレッドがかすかに呆れのようなものを含んで笑ってから、顔を歪める。
 彼は前よりも痩せたのではないだろうか。補佐官の仕事が忙しいのだろうか。

 今のオリヴィアが彼にできることは、彼の元に大事な物が戻るようにと祈ることだけになってしまった。

「そうか。そうは見えないが……一曲お相手いただけますか?」

 彼女が返事をする前に、フレッドがその手を取る。胸が震えた。

「痩せたね」
「フレッド様こそ。きちんと食べておられますか? 忙しいからって食事を抜いておられるのではありませんか? せめて果物かパンだけでも……」
「参ったな。僕のことよりも自分のことを気にしてくれ」

 諭すような口調だ。オリヴィアも笑みを浮かべてフレッドのリードに合わせる。

「私は、この通りつつがなくやっておりますもの」

 フレッドが踊りながら彼女の顔を探るように覗きこんだ。
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