overdrive
涙、愛、告白
「え、どうして……なんで?」


小さな広場は空っぽで、柵の向こうには、ついさっきまでと変わらぬ海が横たわっている。

司さんは沖を眺めながら、私の電話が終わるのを待っていてくれたはず。


(ま、まさかそんなっ)


広場だけではなく、階段の上にも人影は見当たらない。

ノートパソコンが入ったバッグが肩から滑り落ちるのも構わず、私は柵に駆け寄った。

海鳥が一羽、どこからか飛んできて、切り立った岸壁を横切っていく。


(いない、どこにもいない!)


私はこれまで経験したことのないパニックに陥っている。
社長の声が耳に反響していた。

何も考えられず、柵の上に身を乗り出した。海鳥が消えていった沖へと、声を張り上げる。


「司さーん。司さーん!」


――自分が傷付くより、相手を傷付けることを恐れなさい。失ってからでは遅すぎるの。


肩を竦め、くるりと背中を向けてしまった彼の気持ち。
ため息の意味。

本当は全部、予感していた。
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