overdrive
「あなたがいなくなったら、私」

「君を置いていくわけないだろ。団体さんがきたから、邪魔にならないようにと、ちょっと上に移動しただけだよ」


冷静に考えれば分かることなのに、不安すぎて我を失っていた。


「美結、泣くな。怒ってるわけじゃないよ」


司さんは、なだめるように髪を撫でてくれた。

この温もりを失いたくない。切実に願いながら彼を見上げ、頼もしい肩にしがみついた。
パニックになったのは、社長の忠告が的を射ていたから。

でも、もっと前から不安でたまらなかったのだ。
いつも仕事を優先し、ギアを落とさず突っ走る私に彼が愛想を尽かすこと。

失ってしまうことを。


「しょうがないな。君も、俺も……」


涙目をそっと開き、肩越しの景色を見つめた。明るい5月の海は透明な色を湛えている。

行き止まりの柵に、海鳥のつがいが翼を休めていた。
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