overdrive
「司さん。私が突っ走っている時は、言ってください。俺を見ろって」

「美結」

「あなたが大好きだから」


それは、久しぶりの愛の言葉だった。慣れ親しんだ恋人も、超能力を使えるわけじゃない。

きちんと想いを伝えなければ、互いが見えなくなる。


「あのね。俺は今、運転中なんだけど」

「はい?」


ハンドルを慎重に操作し、カーブを抜ける。

彼は、必死にコントロールしていた。


「運転を誤ったらどうしてくれる。揺さぶらないでくれよ」

「ご、ごめんなさい。つい……」

「だめだ、許せないな」

「そ、そんなあ」


焦りまくる私に、司さんは宣告した。彼の横顔には、いつの間にか余裕が復活している。


「君の気持ちはよく分かった。今夜、返事をするよ」

「え……」

「オーバーライドさせてもらう」


熱っぽく呟くと、直線となった道をスピードを上げ走っていく。
ぽかんとする私が可笑しいのか、彼は肩を震わせ始めた。


「司さん?」


今夜?

今夜というのは、泊まる予定になっている温泉宿で……
ということだろうか?


「あ……オーバーライドって」


私は意味を探り当て、激しく動揺する。つまり、強引に――


「二人で旅を楽しもう。そういうこと」


彼は照れながら、にっこりと笑う。

優しい笑顔に見惚れて、私はもう一度熱くなった。




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