overdrive
ここは散策路の突き当りで、ちょっとした展望広場になっている。私は司さんの手にしっかりとつかまり、岸壁を洗う波しぶきを見下ろした。

海は凪いでいるようで、やはり波があるのだ。

ごつごつとした岩肌は、日本海側独特の、自然の荒々しさを感じさせる。


「美結、そんなに身を乗り出すと落ちるぞ」

「大丈夫、司さんに掴まってるもの」

「ったく、俺を巻き添えにするつもりか?」


強引に引き戻され、肩を抱かれた。


「も、もう。心配性だなあ」

「心配させるからだろ」


怒ったように言うと、背の高い彼が覆いかぶさるようにして私を包んだ。背後から抱きしめられた恰好になり、私は身動きがとれない。


「司さん?」

「……」


手を繋いだり、密着したり、普段にない彼の行為に動揺を覚える。
広場には二人きり。散策路も人影まばらだけれど、屋外でこんなふうにくっつくなんて考えられない。


「あの、どうかしたの?」

「なにが」

「い、いつもと違うっていうか……」


司さんがふっと息をつき、私の耳もとを熱い風が掠めた。
それは明らかに、ため息だった。
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