overdrive
急に不安になったのはなぜだろう。

これまでだって、司さんとの会話に割り込む電話に何度も応答してきた。今さら泣きそうになるなんてヘンだ。

久しぶりに手を繋ぎ抱きしめられた。その温もりが不意に消えてしまったせいだろうか?


『もしもし、美結。聞こえてる!?』


スマートフォンを耳にボーッとしていたが、社長の大きな声で我に返った。


「あ、はい。すみません」

『お休み中に悪いわね。今、大丈夫?』


デザイン事務所の経営者であり、人気デザイナーでもある彼女はいつもエネルギッシュだ。辺りに声が漏れそうで、スマートフォンを司さんから隠すようにして反対方向を向いた。


「はい、大丈夫です」


そっと瞼を拭い、元気よく返事した。
司さんが言うように、なにか問題が起きたのかもしれない。無理やり気持ちを切り替えて、話を聞いた。

しかし、仕事の件は修正データを受け取ったという報告のみであり、社長が電話をかけてきた本題は別にあった。


『それにしても、連休明けでいいって言ったのに、すぐに作業してくれるとは思わなかった。いつもながらの早業に感心するわ』

「いえそんな、ありがとうございます」


厳しい社長に褒められ、少し心が浮上する。
だが、彼女は反対に声のトーンを落とした。


『うん、実はね……そのことで電話したの。美結の仕事が早いのは、私としてはとっても助かるんだけど、ちょっと心配になってね』

「心配、ですか?」
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