overdrive
『独身なのはいいのよ。その子は仕事を成功させて、充実した生活を送っているわけだからね。私が言いたいのは、彼女が彼を傷付けたことを、ずっと後悔してるってこと。美結を心配するのは、そうなってほしくないからよ』

「社長?」


私はそこで、ようやく閃いた。社長の言葉には実感がこもっている


「もしかして、それは……」


確かめようとするのを彼女は遮り、社長らしく勢いのある調子で言った。


『いい? 自分が傷付くより、相手を傷付けることを恐れなさい。失ってからでは遅すぎるの』


失う――

彼を、失う?


『以上よ。私も今日は事務所を閉めて、自宅に戻ってのんびりするわ。美結も仕事のことは忘れて、彼と一緒にゴールデンウィークを満喫してちょうだい』

「あっ、もしもし?」


プツリと通話が切れた。
その途端、私の周囲にざわめきが戻り、振り向くと、団体客が広場を引き揚げていくところだった。


(え……?)


賑やかさが去り、広場には波の音だけが残される。

司さんの姿も、消えていた。
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