課長、サインを下さい!~溺愛申請書の受理をお願いします。
新年初出勤。私はいつものように家を出る。
しばらく休みだったから、体はちょっと重たいけれど朝早い空気が清々しい。まだお正月気分の残る街には、いつもよりも人が少ないようだった。
職場に着いて誰もいないオフィスに入る。
オフィスは静かで、新しい年の真新しい空気を独り占めしている気分になる。
いつもの手順で、給湯室のポットにお湯の準備をしてから、みんなのデスクを拭く。心なしかいつもより丁寧かつリズミカルに手が動く。
「~~♪~~♪」
小さな鼻歌が口からこぼれる。今まで例え一人でいたとしても職場で鼻歌なんて歌ったことはない。
すっかり上機嫌になった私は、最後に課長である雄一郎さんのデスクを一層丁寧に拭き上げた。
「~~♪よし、出来た!」
鼻歌の終わりと同時に作業の終了した。腰に手を当てて、満足そげな息をつくと
「お疲れさん。いつもありがとな。」
後ろから突然声を掛けられて、振り向く。
すると、オフィスの入口のドアにもたれかかるようにして雄一郎さんが立っていた。
「ゆっ、、か、課長!いつからそこに!?」
「う~ん、美弥子の鼻歌が始まったところくらいからかな。誰もいないから“雄一郎”でいいぞ。」
「それって、ほとんど最初からじゃない…」
見られていたことが恥ずかしすぎて顔に血が上る。思わず彼から顔を横にそむけた。
雄一郎さんは話しながら私の所まで来ると、私の頬に手を添えてそっと自分の方に向かせた。
「珍しい美弥子を見れて得したな。」
顔を近付けて微笑んでくるから、顔が更に熱くなる。
「か、課長、離れてください!ここはオフィスです。誰かに見られたら…」
『上司と部下』の距離にしては近すぎる。
「誰かが来たら」と焦った私は、彼を押し戻そうと手を突っ張るけど、ビクともしない。
雄一郎さんは「クスっ」と笑って、私の脇に両手を入れて体を持ち上げた。
「きゃあっ」
フワッと浮いた体にビックリしていると、そのまま雄一郎さんは自分のデスクに私を座らせた。