課長、サインを下さい!~溺愛申請書の受理をお願いします。
3. 地上の星を見下ろして
「おまたせ。」
目の前に湯気を立てた土鍋が現れた。
「あ。」
伯母とのやり取りを思い出していて、課長がやって来たことに全然気づかなかった。
土鍋をローテーブルに置いている課長を、仰ぎ見る。
「課長、エプロン似合いますね。」
「あはは。そりゃどうも。」
デニム地のエプロンを身に着けている彼が、ちょっと照れくさそうに笑う。
捲り上げているワイシャツの袖の下からは、筋張った男性特有の腕が出ている。
「さあ食べようか。時間が遅いから消化の良さそうなもんにしたぞ。」
課長が鍋の蓋を取ると、そこにはたっぷりの豆腐が黄金のツユの中に入っている。
「美味しそう…」
「遠慮なく食えよ。」
課長はまず私の器によそってくれた。
「ありがとうございます。いただきます。」
豆腐とおだしを蓮華に乗せて口に入れる。
ふんわりとした出しの香りと程よい塩気が口の中に広がった。
ゴクリ、飲み込むと、お腹の中が温かくなる。
「おいしい…」
吐息と同時に言葉が出る。
「そりゃ、良かった。」
そう言ってはにかんだ笑顔に、胸が熱くなる。
きっと頬も少し赤らんでいるけど、もし課長に気付かれてもお鍋の熱気のせいにしておこう。