課長、サインを下さい!~溺愛申請書の受理をお願いします。
 肩を怒らせてそう言うと、課長は一瞬固まった。
 そしておもむろに

 「ぶはははははっ」

 と吹き出した。

 ジットリと彼は睨むと「わるいわるい…」と謝りながらも、まだ笑いを収めきれずに肩を震わせている。

 「写真すら生理的に受け付けずにすぐゴミに出しました。」

 そう続けると、更にツボにはまったようで、今度は笑い転げだした。

 こんなに感情の起伏がある課長、見たことないわ…

 職場では見たことのない珍しい課長の様子に、パチパチとまばたきを数回繰り返した。
 ひとしきり笑い転げた課長は「腹イタイ…」と言いながら目じりに溜まった涙を拭っている。 
 私はその一連の行動を黙って見ていた。

 「すまん、笑いすぎたな。怒ったか?」

 ただでさえ垂れ気味の瞳なのに、眉毛まで下げて小首をかげて聞いてくるから、なんかこんなワンコがいたな、と思ったらおかしくなった。

 「ぷっ。」

 小さく拭きだしてからクスクスと笑い出した私を見て、課長はまた笑いが戻って来たのか「あはは。」と声に出して笑った。

 「で?」

 「はい?」

 「そのデブ禿げのアラフィフよりも、バツイチアラフォーの俺の方がマシだってことか?」

 それまでの和やかな空気が一瞬でピリっと震えた。

 「それとも俺はお見合いを断る為の『期間限定婚約者』を装えばいいのか?」
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