課長、サインを下さい!~溺愛申請書の受理をお願いします。
 これ以上何を説明すれば分かってもらえるのかしら…

 思案して一瞬口を噤んだその時、横からグイッと力強く引っ張られた。
 私の目の前には、硬い胸板と大きな腕。

 「つまりは、仕事が出来て包容力があるところが素敵だって、ことか?」

 低い声が耳をくすぐるように囁いた。
 カーッと頬に血がのぼる。

 「えっ、、いや、…えっと、その通りです。」

 課長の腕は緩く私を囲っているだけなのに、身じろぎひとつ出来ない。
 息を詰めて固まっている私に気付いているのかいないのか、

 「そうか。じゃあ『婚姻届』は本当に本気なんだな?」

 「だから最初からそう申し上げてます。」

 なんとか強気に応えて、顔を持ち上げて課長を見た。

 「そうか、分かった。じゃあ俺も本気で応えようか。」

 目を細めて口の端を少し上げた彼から、今までにない色気が漂った。

 私が目を見開いた瞬間、唇に柔らかい感触が。
 目前には課長の顔。
 お互い目を閉じてないから、課長の瞳の中に映る自分と見つめ合う。

 彼は触れるだけの口づけを一旦離すと、唇の感触を確かめるように上唇と下唇を順番に啄ばんだ。
 そして、まだ唇がかすかに触れ合う距離で、囁くように言った。

 「結婚するってことは、お前の全部を貰って良いってことだよな?美弥子。」
 
< 18 / 121 >

この作品をシェア

pagetop