課長、サインを下さい!~溺愛申請書の受理をお願いします。
4. 東野雄一郎の事情
『初めてを体験してから出来なくなった』
俺の腕の中でそう告白した彼女の肩が小さく震えているのに気付く。
一生懸命に「自分の否」を説明する彼女を見下ろすと、その瞳に涙の膜がうっすらと張っていた。
いつもとは全く違う頼りない彼女の姿に、胸の奥で何かが音を立てる。
その音の根底に何があるのか。
それを自覚する前に体が勝手に動く。彼女の体をきつく抱きしめた。
「阿呆」
そう言いながら、無性に悔しくなる。
初めての女に優しく出来ない男なんかクズだ。
心の中で、一生見ることのないであろう彼女の昔の男を詰る。
初めてでそんなクズ男に当たってしまった彼女に同情すると同時に、胸の奥がチリチリするのを感じる。
俺だったら、そんな思いはさせないのに。
彼女に優しくしたい。彼女を守りたい。
そう思ってしまったら、もう認めないわけにはいかないだろう。
自覚するした途端、腕の中の彼女が愛おしくて、その瞳からこぼれ落ちそうになっている滴すら一滴も逃さず自分の物にしたくて堪らなくなる。
そっと彼女の目じりを拭って額に口づけた。