課長、サインを下さい!~溺愛申請書の受理をお願いします。
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二十八歳の時に大学の時から付き合っていた同い年の彼女と結婚した。
付き合いが長かったせいか、彼女との結婚生活は特に盛り上がりもなく緩やかに始まった。お互い仕事をしていたこともあって、それぞれ自分たちのペースで生活し、出来る時に出来る方が家事をした。
最初の二年は、妻との生活は気心の知れた友人と暮らしているかのようにリラックスしたもので、俺にとっては快適だった。
しかし三十を迎えた年、俺は仕事が急激に忙しくなった。追われるように夜遅くまで働いて、家に帰った頃には妻は寝てしまっている。どうかしたら会社に泊まり込まないといけないことや、休日出勤も多々あった。
妻は俺の体を心配していたようだったけれど、まだ若かった俺は「大丈夫だから」と耳を貸さなかった。
そうして三年経ったある日
「別れてください。」
妻は『離婚届』を俺に突きつけた。
最初は冗談かと思ったが、彼女は真剣だった。
この三年間、何度も俺と話し合おうと声を掛けたが、俺は疲れていてすぐに寝てしまうか、仕事に行ってしまうか、だったという。
妻は、「二人の子どもが欲しかった、相談したくても出来るような関係ではなかった」と泣きながら話し、「もう私の中にはあなたとの信頼関係はありません。」そう言って『別れの申請書』にサインを求めた。
そうして、彼女は俺の元妻となって去って行った。