課長、サインを下さい!~溺愛申請書の受理をお願いします。
柴原美弥子[しばはら みやこ]
入社から七年目。
総務課の中で彼女は真面目で優秀な社員だ。俺は仕事において彼女に信頼を置いている。
総務課、という特性からかこの課には若い女性が多い。
多くの女性社員は妙齢になると結婚や出産で退職していく。
真面目に仕事に取り組んでいる女性社員がほとんどだが、その若さからかアフターファイブは自分の時間と割り切って、残業せずに早々と退社していく人がほとんどだ。
そんな課の雰囲気に流されることなく、柴原はたいてい定時後もオフィスに残っている。
俺はこの課に来てからしばらく経って、仕事の早い柴原がいつも残業しているのを不審に思って、一人オフィスに残る彼女に尋ねた。
「俺はお前に仕事を振りすぎてるか?」
そう聞いてきた俺にキョトン、と一回首を傾けて「ああ、」と思い当たったように呟いた。
「いえそんなことはありません。課長に頂いた仕事は定時内に終わらせてあります。」
「じゃあ今しているのは?」
と尋ねると
「今日、具合が悪いと帰られた山村さんの分です。」
その答えを聞いて俺はハッとした。
「悪い、山村には今日中の仕事を頼んでいたんだったな。俺が引き受けるからもう帰っていいぞ。」
「いえ、私が自分から声を掛けて引き受けましたから。それにあと15分ほどで完成します。」
その答えにさらに驚いた。
自分の仕事を終わらせてから取り掛かったとして、なんてスピードなんだ。
彼女の仕事能力の高さを実感したのはこの時だったな。