課長、サインを下さい!~溺愛申請書の受理をお願いします。
5. 真夜中の男と女
勧めれるがままお風呂を頂いてしまった…。
いったいどうして課長のお宅のお風呂をお借りすることになったのかしら…。
浴槽にたっぷりと張られたお湯に使って、今の自分の状況を把握しようと考えに集中する。
課長に結婚を申し出たのは確かに私。
お見合い写真破り捨ててから、私はどうしたらこの縁談から逃れられるのか考えた。
今回なんとかお断り出来たとしても、きっと伯母はまた縁談をもってくるだろう。そういう人だ。
それなら、いっそのこと相手をつくってしまえばいい。
そう行き着いた時に、まっさきに課長のことが浮かんだ。
彼はバツイチのせいなのか普段から女性に対して淡泊だ。
なんだか「世捨て」オーラすら漂っているから、基本的に同じ課の若い子たちは課長を「男性」として扱っていない。
けれど、仕事のことで「お願い」をする為に「若い女子」を前面に押し出してくることは間々ある。
「わたし、こんなに沢山の仕事はこなせません…」
「一生懸命やってるんですが…」
「忘れてたわけじゃないんです…」
そうやって、甘い声と潤んだ瞳を使って課長に許してもらおうとする後輩たちの姿を目にしてきた。
そんな彼女たちに彼は鼻の下を伸ばすことなく、さも「何でもない」というふうに
「ああ。分かった。」
と、社会人としてどうかと思う「お願い」を承諾していた。
それを横目に見ながら
私にはそんな真似できないわ。
と仕事に対する自分の矜持を確認する。
でも本当は、頭の片隅に湧き上がった「あれが私だったら課長はなんていうんだろう…。」
そんな疑問に蓋をしたのだ。