課長、サインを下さい!~溺愛申請書の受理をお願いします。
 「きゃっ」

 一瞬で視界が反転した。
 何が起きたのか分からない。

 短い悲鳴を上げた私は、さっきまで課長が座っていたソファーに仰向けになっている。
 そしてその私の真上には課長が。

 右手で私の手首を掴んでいる彼は、反対の腕を私の耳の横に突いて自分の体を支えている。
 いつもの気だるげな感じは一つもなく、私を見下ろすその顔は「獲物を仕留める前のオス」。 
 私の鼻先で、課長の瞳が甘く揺れる。

 
 「きれいだよ。」

 「え?」
 
 「美弥子は綺麗だ。」

  吐息のかかる距離で囁くように彼が言った。

 「う、うそ…」

 信じられない、と思わず反論が口から出る。
 それを聞いて、彼は「くくっ」と笑って

 「化粧しててもしてなくても美弥子は綺麗だぞ。いつも仕事中はピンと伸ばした姿勢が美しいし、所作にも上品さがあるよな。髪をキュッと後ろで括ってるのは勇ましいけど、サラサラしていて触りたくなる。」

 そういって、私の一つにまとめた毛先を手で持ち上げ、口づけた。
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