課長、サインを下さい!~溺愛申請書の受理をお願いします。
長い線を描いて立ち上る煙を消しながら
「しば~は~らぁ、大人をからかっちゃいかんぞ。」
動揺を一瞬で振り払った課長は、私をジトリと見上げてそう言った。
「いえ、私も立派な大人ですので。」
至極当然、という口調でそう切り返した私に
「そりゃそうだ。四十路のおっさんにこんな手の込んだ悪戯をするのは立派な大人のやることじゃないと思うんだがな、柴原。」
「ええ、悪戯ならそうですね。」
「じゃあ、」
課長が続けようとする言葉を遮って、手に持っていた婚姻届を顔の前に押し付ける。
「悪戯なんてしません。これは私の『本気』です。」
「柴原…」
しっかりと絡み合った瞳を一瞬も逸らすことのない私に、彼は続ける言葉を失っている。