課長、サインを下さい！～溺愛申請書の受理をお願いします。
　食事のあとそのまま彼のマンションに連れて帰られた。
　
　帰り道の途中、車の中で「今日は自分のうちに帰るから」と言うと、それには返事をせずに雄一郎さんは黙って車を走らせた。
　私が一人暮らしをしているマンションの駐車場に車が停まる。

　「……着いたぞ。」

　いつもより低い声に、彼の機嫌が悪いことを知る。

　雄一郎さんが仕事中にこんな風に機嫌悪くなったことはない。いつもやる気がなさそうな気だるげな雰囲気をまとっているけど、彼はいつも一定のテンションを保ったままで、こんなふうにあからさまに自分の不機嫌を表に出したことなんてなかった。

　「雄一郎さん、何か怒ってるの？」

　いつもと違う彼の様子に私はどう反応するのが正しいか分からず、内心動揺する。

　「…怒っては、ない…」

　「でも、なんだかいつもと違うわ…」

　「………。美弥子、うちに来るのは嫌か？」

　「え？嫌、ってことはないけど…」

　「けど？」

　「雄一郎さんのとこには私の物はないから…」

　「じゃあ、今から荷物をまとめてきたらいい。俺はここで待ってるから。」

　「でも……」

　「でも、何？」

　声を更に低くした彼が、ジッと私を見つめている。

　「その、……雄一郎さんは、ゆっくりできるの？」

　「え？」

　「私がずっといたら雄一郎さんが寛げないかと思って……」

　なんとなく言い辛くて声がだんだん小さくなる。言いながら彼から目を逸らしてしまった。
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