課長、サインを下さい!~溺愛申請書の受理をお願いします。
結局それから今までずっと、雄一郎さんのタワーマンションで暮らしている。
朝目が覚めると隣で眠っている雄一郎さんの顔を眺めたり、逆に目が覚めると私の寝顔を見ていた彼と目が合ったり、そして「おはよう」ってキスをして、二人で作った朝食を食べて、彼が片付けをしてくれてる間に私は身支度をする。
そして玄関で「いってきます」のキスをして、私は先に家を出る。この時の彼の「いってらっしゃい」が曲者で、私をなかなか離してくれずに、出るのが遅くなってしまうことがほとんどだ。
とは言え、彼のマンションから職場は十分ほどだから、自宅から通っていた時よりもずっと通勤が楽になった。
私がまだ誰もいないオフィスで給湯室の準備やみんなのデスクの吹き上げ、観葉植物の水遣り、といった朝一番の仕事を終わらせた頃、ぞくぞくと同じ課の同僚たちが出勤してくる。大抵その一番最後が雄一郎さんだ。
「おはようございます。」
出勤してきた一人ずつと、いつものように挨拶を交わして、いつも通りに仕事に取り掛かる。
私と雄一郎さんは、会社では「課長」「柴原」とそれまでと変わらず呼んで「上司と部下」を貫いている。
お互い特に意識することなくこれまで通り坦々と業務を遂行する日々だ。
彼は相変わらず窓辺の自分の席で気だるげに書類に向かっている。
でも『これまでと変わりなく』仕事をしているのは私だけで、彼には少しだけ変わったところがあった。
それは