課長、サインを下さい!~溺愛申請書の受理をお願いします。
 「課長、システム課の社員からの申請書に抜けがありました。今日が〆切ですが通しますか?」

 「いや、相手に直接差し戻して、十五時までに提出するように言っておけ。」
 
 「かちょ~。今日は定時後に予定があって、今の仕事が今日中に終わりそうにないんですっ。」

 「ああ、分かった。でも中原なら本気を出せば定時までに終わらせられると思うぞ。分からないところはいつでも聞いて来いよ?」
 
 彼は、二つ返事で「いいぞ。」と言わなくなった。
 
 どんなに急ぎの申請書でも、若い女子社員のお願いも、それとなく出来るように持っていく。
 
 そして、それまでは署名捺印の仕事以外はデスクでぼんやりとしていて、その机の上には書類が山積みになっていたのに、今週は全然溜まらない。
 かと言って、必死に仕事を捌いている態でもないから、もともとの課長の仕事が、彼にとっては余裕でこなせるものだったに違いない、と私は密かに思っていた。
 
 週の初めからそんな調子で、ウィークデーを折り返したころには、課のみんながそれに気付いて「課長、いつもと何か違いませんか?」と言いあっていた。
 


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