課長、サインを下さい!~溺愛申請書の受理をお願いします。
 長い間、激しい口づけで思う存分私の唇を味わいつくした雄一郎さんがやっと私を離した時、私はぐったりと力が抜けてしまっていた。
 それでも抗議の意思だけは伝えたくて、ゼイゼイと肩で息をしながら涙目で彼を睨みける。
 流石の彼にも、私のお怒りがちょっと伝わったようで

 「み、美弥子…怒ってるのか?」

 恐る恐る、ソファーの向かい側に回って来た。

 「…怒ってます。」

 目の前に膝をついて私の顔を覗き込んでくる彼から顔を背けて呟いた。

 「ゴ、ゴメン。しつこくしたから嫌だったか?」

 子犬の耳と尻尾を付けたって騙されませんから!

 黙って心の中で膨れていると、どんどん目の前の彼がオロオロとしていく。

 「ごめんなさい、もうしません。美弥子、許して?なんでも言うこと聞くから…」
  
 ありとあらゆる言葉を並べて私の機嫌を取ろうとしている彼を見ていると、さっきまでささくれ立っていた気持ちが落ち着いてくる。「もう、しょうがないなあ」と思えると何だか笑えてきた。

 「…ぷっ、うふふふ…」

 俯いて肩を震わせ始めた私に気付いた雄一郎さんが、不審そうに私を見ている。
 耐え切れなくなって、顔を上げた。

 「もう、怒ってません。…ふふふっ。なんでも言うこと聞いてくれるんでしょ?」

 笑いながら上目使いで言うと

 「あ、ああ。」と彼は頷く。

 「それなら、今からすぐに髪を乾かしてきて!明日は大事な日なんだから、風邪引いたらどうするの!?」

 子どもを叱りつける母親の気分ってこんなかしら。
 
 そんな私を見て、目をパチクリさせた雄一郎さんは

 「ワカリマシタ。」
 
 と言って、私の頬に軽く口づけてからバスルームへと戻って行った。
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