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8. 決戦は土曜日
この前のデート時に雄一郎さんが買ってくれたワンピースに袖を通す。
スルリ、と肌に当たる生地の感触が心地良い。
青みがかった紺色一色のワンピースは、光沢のあって上品かつ華やかだ。
上半身はノースリーブで体のラインにそっているけれど、ウエストからはAラインで緩やかに広がっている。
膝上で揺れるデザインが可愛いけれど、甘すぎないとこどが気に入っている。
このワンピースの一番の特徴は、首の後ろに大きなリボンが縫い付けてあってその下は大きく開いていて、肩甲骨が全部見えるところだ。
これからの予定にはそぐわないから、上からセットアップのジャケットを羽織る予定である。
今日は眼鏡ではなくコンタクトを装着する。
フォーマルな装いに合わせていつもよりもしっかりとしたメイクを施してから、耳には小ぶりなダイヤモンドが垂れ下がったピアスをつける。
いつもは後ろで一つ括りにしている黒髪を、今日はなんとかアップスタイルにまとめた。
身支度を済ませ、ジャケットを腕にかけてパウダールームから出ると、雄一郎さんが立っていた。
「美弥子。準備は出来たか?」
リビングの入口に寄りかかって立っている雄一郎さんの右手から車のキーがぶら下がっている。
彼の姿が目に入った瞬間、私はピタリと足を止めた。
いつもはそのままおろしている少しクセのある長めの前髪を、今はスタイリング剤を使って後ろに流している。
着ているのも普段仕事で見るスーツではなく、どう見ても高級な三つ揃えのスーツだ。
彼の体格にピッタリ合っていることから、おそらくオーダーかそれに近いものだろう。
胸がドキドキして、顔が赤くなっていくのを感じる。
無言で立ち尽くしている私のところにやってきた雄一郎さんが、無言で私の腰を抱き寄せた。
「はぁ~、」
私の肩に額を付けて長い息をついた彼に、「具合でも悪くなった?」と心配になる。
「具合、悪い…かも。」
「え!?大変、早く」
休まないと、と続けようとしたその口を彼が勢いよく塞いだ。
不意打ちの激しい口づけに、為す術もなく翻弄される。
その上、彼の手は背中の空いたところから忍び込んで来て、怪しげな手つきで素肌を撫で始めた。
「ん、んん~~っ!」
彼の背中をドンドンと叩いた。