課長、サインを下さい!~溺愛申請書の受理をお願いします。

 落ちてしまった口紅を塗り直して、私たちは家を出た。
 伯母に指定されたお見合いの場所のホテルまでは車で30分足らず。

 彼の車に乗るのは今回で二度目だけど、これからの事を考えると緊張してしまって、黙りがちになる。

 雄一郎さんはそんな私をリラックスさせようと、心地良い洋楽のBGMをかけてくれて、お見合いとは全然関係ない話を振ってくれた。

 話しの流れで、お互いの兄弟関係や幼い頃の話になった。
 私は一人っ子で、小さい時はかっこいいお兄ちゃんが欲しかったこととか、学校の帰りに子猫を拾って家に連れて帰ったこととか。
 雄一郎さんには、三歳年下の妹さんがいるけど、随分前に結婚して三人のお子さんを育てながらバリバリ働いているらしい。その妹さんの子ども達の面白い話しとか、赤ちゃんの時の可愛いエピソードとか。
 ここ一週間、職場でも家でもずっと一緒にいる私たちだけど、まだまだお互いのことで知らないことが沢山あるんだな。もっともっと彼のことが知りたいし、私のことも知ってほしい。

 楽しい会話にいくぶんリラックスできた頃、車は目的地のホテルに到着した。
< 77 / 121 >

この作品をシェア

pagetop