課長、サインを下さい!~溺愛申請書の受理をお願いします。
 黙って頭を下げ続ける私たちに、根負けした父が「二人とも顔を上げなさい。」と言った。
 恐る恐る顔を上げて父を見ると、怒ってはいないけど、まだ許可は出来ないという表情だ。

 「二人とも掛けなさい。まだ先方がいらっしゃるまで時間がある。ちゃんと話を聞こうじゃないか。」

 父と母の前に、雄一郎さんと私、の順に座った。
 畳敷きの和室のテーブルの下は掘りごたつ式になっていて、足が下せるのだけど、私も雄一郎さんもそうはせずに正座で座った。
 
 「美弥子、いったいどういうことだ。二週間前の電話では決まった相手が居ない、と言っていたから、姉さんが持って来た見合い話を進めることにしたんだ。」

 「お父さん、嘘はついてないわ。二週間前は私は誰ともお付き合いしていなかったから。」
 
 「じゃあ、何か?見合いが嫌で、相手をこしらえた、とういうことか?」

 「……。」

 父の言うことがあながち外れていないから、私は返答に詰まった。
 でも、本当はそうじゃなくて、本当に彼のことが好きだということを父にどう説明してよいのか。
 なんて言ったら分かってもらえるのか、上手い言葉が出てこない。

 黙ってしまった私は見て父が「は~」と溜め息をついた。

 でも、その時

 「お言葉ですが、それは違います。」

 隣にいる雄一郎さんがキッパリと否定した。
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