課長、サインを下さい!~溺愛申請書の受理をお願いします。
小さな和室に沈黙が広がる。
黙ったままの空気が重いけれど、私も雄一郎さんも、父と母の返事を頭を下げたままじっと待った。
「ふふふ…」
張りつめた空気の中、その場にそぐわない楽しげな笑いが聞こえた。
緊張のあまりの空耳か、と思ったけれど、どうやらそうではない。
まだ楽しそうに笑うのは、母の声だった。
「美弥ちゃん、東野さん、顔を上げて。」
言われるがまま顔を上げると、母の嬉しそうな顔が目に入って来た。
「うふふふ、美弥ちゃん。好きになれる方が見つかって良かったわね。」
母は優しそうに私に微笑んで、今度は雄一郎さんに顔を向けた。
「東野さん、ふつつかな娘ですが宜しくお願いしますね。」
そう言って頭を下げる母に、雄一郎さんも「はい。」と頭をさげる。
「おっ、おい、弥衣子、お前、何を勝手に!」
父は、勝手に私たちのことを認めた母のことを焦って止めようとした。まだ、自分は承諾しかねる、という顔をしている。
すると、それまでにこやかにしていた母は、目じりを吊り上げて父の方を向いた。