課長、サインを下さい!~溺愛申請書の受理をお願いします。
車を走らせること15分。あっという間に彼の車は目的地に着いた。
着いたところで私はその『目的地』とやらを知ることになったのだけど。
「ここって……」
大きなビルの前に立って、門の外からそれを見上げた。
車を近くのコインパーキングに停めて少し歩いたところにある、『それ』。
「私たちの親会社の【榊コーポレーション】じゃない…!?」
「ああ。美弥子はこの場所を知ってたのか?」
総務課の私にはほとんど来ることはないけれど、諸々の諸手続きの関係上、親会社の住所くらいは知っている。
私たちが普段勤める【サカキテック】からもそんなには離れて無い為、何かのついでに近くに来た時に「一応場所くらいは」と思ってチェックしてあったのだ。
問いかけに答えることなく黙って親会社のビルを見上げる私の手を取った雄一郎さんは、そのままエントランスから入ろうとする。
「ちょっ、ゆ、雄一郎さんっ!待って!!」
慌てて繋がれた手を離そうと引っ張るけれど、彼は離してくれない。それどころか、指を絡めて繋ぎ直してくる。
「大丈夫だから。おいで美弥子。」
仕方なく手を繋がれたまま、エントランスの自動ドアを一緒にくぐった。