国王陛下の庇護欲を煽ったら、愛され王妃になりました

 ◇

 次の日の朝。空腹と、マリエの声で目が覚めた。

「ノエリア様? お嬢様?」

 コンコンとノックされるドア。首と腰が少し痛い。ソファーで変な体勢眠ってしまったらしい。本読んでいた本は床に落ちている。

(いけない。行かなくちゃ)

「はい。ごめんなさい。いま行くわ」

 体を起こし、鏡の前に立って、乱れた髪を手櫛で整え素早く編み直す。そして部屋を出た。マリエが笑顔で迎えてくれる。

「お休みでしたか?」

「いつ呼ばれてもいいように起きているつもりだったのだけど、うっかり寝てしまったみたい。明け方までの記憶はあるのだけれど」

 隣室に聞こえないように話す。

「おふたりはまだお部屋?」

「ノエリア様がいらしてから、お部屋に伺おうと思っていたのです。朝食の支度が整いましたので」

「ご、ごめんなさいね。寝坊しちゃったのね」

 マリエとキッチンへ向かう。ワゴンへセットされた朝食をマリエと一緒にシエルとリウの部屋へ運ぶ。お茶の用意もされていた。

「準備、全部させてしまってごめんなさいね」

「いいのですよ。ノエリア様は手当などでお疲れだったのですから。お気になさらず。ヴィリヨ様には既に朝食をお持ちしています」

 マリエに微笑み返す。部屋の前まで来て、ドアをノックする。

「おはようございます。ノエリアです」

「はい。どうぞ」

 リウの声が聞こえた。

 ノエリアはドアを開け、視線を落としながら部屋へと入った。ワゴンを運び入れ、ふたりに向き直って腰を落とし再び挨拶をする。

「おはようございます。朝食をお持ちしました」

 ゆっくりと視線を上げるとリウが迎えてくれた。

「おはようございます。今朝はよく晴れていますね、よかった」

 ノエリアは、リウの後ろにある窓を見た。確かに、昨日の嵐がうそのように青空が広がっている。慌てて起きたから、天気を気にする余裕がなかった。

「そうですね。これなら村に行けます」

 ベッドに視線を移すと、シエルはまだ眠っていた。声がうるさかっただろうかと思わず口を抑える。

「大丈夫です。ずっと眠ったままなので。少々の物音じゃ起きないですよ」

「そう、ですか。リウ様は眠れましたか?」

「はい。時々覚醒をしながらでしたが、なんとか」

「安心しました。寝不足で村まで移動はつらいかもしれな……」

(あっと、いけない)

 本当ならこんな風に会話をできるような身分の相手ではない。けれどリウの優しい雰囲気に、思わず兄やマリエと同じように接してしまう。

「失礼しました。お食事、ここへご用意します」

 部屋にあるテーブルにワゴンを寄せて食事を用意する。軽々しく話をしては無礼になる。ノエリアの様子を見て、リウは立ち上がり近寄ってくる。思わず緊張し体を固くする。

(お、怒られるかな)

「ああ、普通にお話と。シエル陛下もきっとそのほうがいいと思います」

「ま、まさか」

「気さくな方ですよ。外出中に目覚めたらお話し相手になってさしあげてください」

 そう言ってくれたリウに、ノエリアは笑顔で返す。

「そう、ですか。承知しました」

 気遣ってくれているのが嬉しい。受け入れよう。ノエリアは心が解れ、そして、お腹が鳴った。

「ノエリア殿の腹の虫?」

「あ、う……お恥ずかしい」

 結局、昨夜はあの騒ぎで食事をしなかったから、お腹が空いて仕方がない。

「ご一緒しますか?」

「あ、いいえ。わたしたちは別室で……」

「残念。ひとりで食事をするのも寂しいですが」

 ここで一緒に食事などできない。リウと話している間に、マリエが食事をテーブルに並べ、ワゴンを壁に寄せ、お茶を注ぐ。


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