国王陛下の庇護欲を煽ったら、愛され王妃になりました
「食事が済んだら、すぐ村へ出発しようと思うのですが」
リウがテーブルへ移動してきた。マリエにも気さくに話しかける。マリエはちょっと頬を染め、返事をした。
「はい。玄関のすぐ横にある部屋に待機しておりますので、お声がけください」
お茶を注ぎ終わると、マリエは昨夜の食事の後片付けをして、下がった。朝食も、質素なものだ。パンと、カボチャのスープ。野菜と干し肉の煮込み。
「昨夜と同じメニューで申し訳ございません。その、見ての通り我がヒルヴェラ家はあまり、その……質素な生活をしておりまして」
没落寸前で貧乏なのは見て分かるだろうから、敢えて自虐的表現を使うのは醜いと思った。彼らがここを出るときまでの辛抱だ。
「美味しいです。昨夜いただいたカボチャのスープ、また食べたいと思っていたので」
「そう、ですか」
リウは、スープをスプーンですくって、口に運ぶ。うっとりと味わっているようだ。飲み込んで、微笑んでくれた。マリエ仕込みである料理の腕、味には自信がある。スープを褒められて嬉しかった。
そこで、再びドアがノックされる。
(誰かしら? マリエが戻ってきたのかな)
リウは、返事は任せるといった感じで目配せをしてきたので、答えることにする。
「はい。どうぞ」
ドアを開けて入ってきたのはなんとヴィリヨだった。
「ご挨拶が遅れ、大変申し訳ございません。ヴィリヨ・ヒルヴェラと申します。ここの主人です」
きちんと着替えをし、国王とそのお付きの者の前に出る準備をしてきたようだ。体調が悪そうには見えなかったので、ノエリアは安心した。
「これは。こちらもきちんと挨拶をせず、お世話になっております」
リウもきちんとした対応だ。
「じゅうぶんなご用意ができず、申し訳ございません。国王陛下は、まだ眠っておられると伺ったので、リウ様だけでもお会いせねばと思いまして」
「手当をしていただいて、このように話していても目覚めないほど眠っております」
仕方ないなとでもいうように、リウがベッドを見やる。
「こちら、ヒルヴェラ伯爵のお屋敷だったのですね」
「お分かりでしたか」
リウがヒルヴェラ伯爵と口にしたことと、ノエリアも驚いた。昨夜、詳しく説明はしなかったのだが。
「ええ。こちらの方面は昔ヒルヴェラ領がございましたね。そのような資料があったことを思い出しました」
「現在は見ての通りですが……」
ノエリアもヴィリヨも、同じような反応を見せることに、リウは敢えて返事をしなかった。
「誇りは失っていません。ヒルヴェラ再興のため、僕は諦めません」
ヴィリヨの言葉はノエリアにも響いた。日頃から熱っぽく語る性格ではない兄だったが、気持ちはノエリアにも分かっていた。
「現在、屋敷には僕と妹のノエリア、マリエ以外おりません。行き届かないところはご容赦願いたい」
「じゅうぶん手厚くしていただいていますよ。陛下が目覚めたらきちんと報告させていただきます」
リウはそう言ったけれど、ノエリアは考える。
(これでヒルヴェラ家として陛下に恩を売るような形にならなければいいな……)
そんなことは、ノエリアは望んでいなかった。回復して無事に王都へ帰還して貰えれば、それでいい。ノエリアはヴィリヨの顔色を伺った。しかし、横顔はただ凛としていただけで、思惑は読み取れなかった。ノエリアは小さく溜息をつき、奥のベッドで眠るシエルを見た。
(目覚めたら、とにかく安心していただけるよう、尽くそう。それがわたしの役目)
なんだか力が湧いてくるようだった。嬉しくもある。
心に熱を持つように感じながらノエリアが心新たにしていると、ヴィリヨが話す。
「お食事中、申し訳ありませんでした。僕はこれで失礼いたします。国王陛下には滞在中、ゆっくりお休みいただけますよう全力を尽くします。とにかく、陛下の回復を最優先に」
ヴィリヨがノエリアを振り向いて言うので、頷いた。ヴィリヨの後ろにつき、ノエリアもスカートをつまみお辞儀をする。
リウが手を胸に当てて感謝の気持ちを示した。
「感謝します。ありがとうございます。ああ、ノエリア様も、朝食を召し上がってください。足止めしてしまい、すみません」
「いいえ……それでは、失礼致します」
ドアを閉めて、ノエリアはヴィリヨを見る。穏やかに微笑んで、ヴィリヨが頷く。
「我々で陛下のために力を尽くそう」
「分かっています。お兄様」
「それと、ヒルヴェラ家として陛下に恩を売ろうと思っているわけではない。見返りなど要求してはいけないよ。これはマリエも同じだ」
ヴィリヨはしっかりとした口調でノエリアの肩に手を置いた。ノエリアは嬉しくて兄の腕に抱き着いた。
「やっぱり、お兄様と同じ考えでした。恩を売ろうなどと微塵も思っていません。マリエだってそうです。安心してくださいな。わたしたちにできることを精一杯しましょう」
兄を安心させたくて、笑顔を向ける。
「陛下に、元気で帰っていただこうな」
「そうね。とはいえ、お兄様は無理しちゃだめですからね」
「ハハ。ノエリアはここで誰よりも頼れるからな」
リウがテーブルへ移動してきた。マリエにも気さくに話しかける。マリエはちょっと頬を染め、返事をした。
「はい。玄関のすぐ横にある部屋に待機しておりますので、お声がけください」
お茶を注ぎ終わると、マリエは昨夜の食事の後片付けをして、下がった。朝食も、質素なものだ。パンと、カボチャのスープ。野菜と干し肉の煮込み。
「昨夜と同じメニューで申し訳ございません。その、見ての通り我がヒルヴェラ家はあまり、その……質素な生活をしておりまして」
没落寸前で貧乏なのは見て分かるだろうから、敢えて自虐的表現を使うのは醜いと思った。彼らがここを出るときまでの辛抱だ。
「美味しいです。昨夜いただいたカボチャのスープ、また食べたいと思っていたので」
「そう、ですか」
リウは、スープをスプーンですくって、口に運ぶ。うっとりと味わっているようだ。飲み込んで、微笑んでくれた。マリエ仕込みである料理の腕、味には自信がある。スープを褒められて嬉しかった。
そこで、再びドアがノックされる。
(誰かしら? マリエが戻ってきたのかな)
リウは、返事は任せるといった感じで目配せをしてきたので、答えることにする。
「はい。どうぞ」
ドアを開けて入ってきたのはなんとヴィリヨだった。
「ご挨拶が遅れ、大変申し訳ございません。ヴィリヨ・ヒルヴェラと申します。ここの主人です」
きちんと着替えをし、国王とそのお付きの者の前に出る準備をしてきたようだ。体調が悪そうには見えなかったので、ノエリアは安心した。
「これは。こちらもきちんと挨拶をせず、お世話になっております」
リウもきちんとした対応だ。
「じゅうぶんなご用意ができず、申し訳ございません。国王陛下は、まだ眠っておられると伺ったので、リウ様だけでもお会いせねばと思いまして」
「手当をしていただいて、このように話していても目覚めないほど眠っております」
仕方ないなとでもいうように、リウがベッドを見やる。
「こちら、ヒルヴェラ伯爵のお屋敷だったのですね」
「お分かりでしたか」
リウがヒルヴェラ伯爵と口にしたことと、ノエリアも驚いた。昨夜、詳しく説明はしなかったのだが。
「ええ。こちらの方面は昔ヒルヴェラ領がございましたね。そのような資料があったことを思い出しました」
「現在は見ての通りですが……」
ノエリアもヴィリヨも、同じような反応を見せることに、リウは敢えて返事をしなかった。
「誇りは失っていません。ヒルヴェラ再興のため、僕は諦めません」
ヴィリヨの言葉はノエリアにも響いた。日頃から熱っぽく語る性格ではない兄だったが、気持ちはノエリアにも分かっていた。
「現在、屋敷には僕と妹のノエリア、マリエ以外おりません。行き届かないところはご容赦願いたい」
「じゅうぶん手厚くしていただいていますよ。陛下が目覚めたらきちんと報告させていただきます」
リウはそう言ったけれど、ノエリアは考える。
(これでヒルヴェラ家として陛下に恩を売るような形にならなければいいな……)
そんなことは、ノエリアは望んでいなかった。回復して無事に王都へ帰還して貰えれば、それでいい。ノエリアはヴィリヨの顔色を伺った。しかし、横顔はただ凛としていただけで、思惑は読み取れなかった。ノエリアは小さく溜息をつき、奥のベッドで眠るシエルを見た。
(目覚めたら、とにかく安心していただけるよう、尽くそう。それがわたしの役目)
なんだか力が湧いてくるようだった。嬉しくもある。
心に熱を持つように感じながらノエリアが心新たにしていると、ヴィリヨが話す。
「お食事中、申し訳ありませんでした。僕はこれで失礼いたします。国王陛下には滞在中、ゆっくりお休みいただけますよう全力を尽くします。とにかく、陛下の回復を最優先に」
ヴィリヨがノエリアを振り向いて言うので、頷いた。ヴィリヨの後ろにつき、ノエリアもスカートをつまみお辞儀をする。
リウが手を胸に当てて感謝の気持ちを示した。
「感謝します。ありがとうございます。ああ、ノエリア様も、朝食を召し上がってください。足止めしてしまい、すみません」
「いいえ……それでは、失礼致します」
ドアを閉めて、ノエリアはヴィリヨを見る。穏やかに微笑んで、ヴィリヨが頷く。
「我々で陛下のために力を尽くそう」
「分かっています。お兄様」
「それと、ヒルヴェラ家として陛下に恩を売ろうと思っているわけではない。見返りなど要求してはいけないよ。これはマリエも同じだ」
ヴィリヨはしっかりとした口調でノエリアの肩に手を置いた。ノエリアは嬉しくて兄の腕に抱き着いた。
「やっぱり、お兄様と同じ考えでした。恩を売ろうなどと微塵も思っていません。マリエだってそうです。安心してくださいな。わたしたちにできることを精一杯しましょう」
兄を安心させたくて、笑顔を向ける。
「陛下に、元気で帰っていただこうな」
「そうね。とはいえ、お兄様は無理しちゃだめですからね」
「ハハ。ノエリアはここで誰よりも頼れるからな」