国王陛下の庇護欲を煽ったら、愛され王妃になりました
「ノエリア様~? ……すごくいい匂いがしますが」
キッチンにそっと顔をだしたマリエが、鼻をクンクンと慣らしている。洗濯籠を持っているので外に干してきたのだろう。
「お疲れさま。いまね、ケーキが焼きあがったところ」
古いオーブンから出した丸型ケーキが、少し焦げ目がついて、香ばしい香りを放っている。
「いい感じ」
「あ、マーマレードですか。それに、林檎のジャム、苺のジャム。たくさん仕込みましたねぇ」
「果物たくさん買っていただいたでしょう。せっかくだから」
マリエはジャムをひとさじ舐めてみて、うっとりと目を閉じた。
「いいお味です」
「ありがとう」
「手伝います」
焼けたケーキを冷ます。林檎ジャムを真ん中、その周りにマーマレードを塗った。上から見ると、艶々した甘い二重丸が乗ったジャムケーキが出来上がった。
「ティータイムにと思って」
「陛下も喜ばれるでしょう」
これを食べた時のシエルの反応を想像して、ノエリアはふっと笑顔になった。
ジャムケーキを作り終えたときにはもう昼間近だった。昼食の準備に入ろうとしたとき、リウがキッチンを訪ねてきた。
「なんとも甘い香りですねぇ」
「ティータイム用のケーキを焼いたんです。あ、昼食はもうすぐです」
「陛下が、昼食はいらないとおっしゃっています。わたしはいただきますが」
「そうですか。ではダイニングでお待ちください。兄もくると思うので」
ヴィリヨはここのところ不思議と体調が良いらしく、部屋ではなくダイニングで食事をし、畑にも行っている。国王が滞在していることで気が張っているのだと思う。
(これで無理がかかって、体調を崩さないといいのだけれど)
準備をし、ダイニングで昼食を皆でとることにした。マリエがヴィリヨに声をかけ、四人での賑やかな昼食となった。
「ノエリア、ケーキを焼いたんだろう? とてもいい匂いがしていた」
ヴィリヨは、顔色もいい様子だった。ノエリアは安心しつつ、無理はしないで欲しいなと思う。
「そうなの。ジャムケーキよ。ティータイムにお兄様も召し上がってね」
「楽しみだ」
「陛下のものは部屋にお持ちください。俺はここでヴィリヨ殿と話がしたいし」
「喜んで」
ヴィリヨとリウは、屋敷にある古い資料や本などで話に花を咲かせているらしい。意気投合しているのだろう。リウはマリエとも仲がいいし、存在をありがたいと思う。
「シエル陛下のお相手は、ノエリア殿にお任せしていいでしょうか」
「は、はい」
ノエリアが返事をすると、リウが片目を瞑った。ノエリアは意図がよく分からず首を傾げた。
食後、部屋でのんびりする時間があり、ノエリアは読みかけの本を手に取って過ごした。そして、髪を整え口紅を塗り直し、鏡の前で笑顔の練習をしてから、ティーセットとケーキを持って、シエルの部屋のドアをノックした。
「ノエリアです」
入りなさい、と声がしたのでドアを開ける。シエルがベッドに起き上って本を読んでいた。
「起きて大丈夫ですか?」
「痛みはまだあるが、動けないほどではない」
具合が悪いようには見えず、順調に回復しているのだろう。とはいえ、数日で傷口が治るわけではないから、包帯交換のときにまた状態を確認しなくては。
「陛下に食べていただきたくて、ケーキを焼きました」
「甘い匂いがしていたな」
テーブルにティーセットとケーキを置く。一人分にカットして持ってきたものをふたつ。
「マーマレードと林檎ジャムのケーキです」
「このジャムも手作り?」
「そうです」
シエルは本を閉じ、テーブルに体を向けた。
「どっちのジャムも美味しく仕込めたので、二色にしてみました。気に入ってくださると嬉しいです」
「……座ったらどうだ?」
シエルが、お茶を淹れてから立ったままケーキの説明をするノエリアに着席を促す。ノエリアが座ると、シエルはケーキにフォークを入れる。そして口に運んだ。ノエリアはその様子を緊張しながら見ていた。
「うん。美味しい」
「よ、よかったです!」
シエルは次々にケーキを口に運んで食べてくれた。そしてお茶も飲む。
「苦みのあるお茶にピッタリだ。とても美味しい」
「ありがとうございます。嬉しい……」
ノエリアもケーキを食べる。ジャムは美味しくできたし、生地もうまく焼けた。シエルが美味しいと食べてくれるのが本当に嬉しかった。
「陛下が昼食を召し上がらなかったので、消化を助ける作用のある薬草茶にしました。あとは香りを楽しむものもお持ちしています」
ティータイムだから、ゆったり過ごして欲しいとのノエリアの気持ちだった。半分ほどケーキを食べて、シエルはフォークを置く。
「先ほどは、すまない」
ノエリアも、話を聞こうと思い手を置く。
「怒っているわけではないのだがこの顔のせいで誤解されやすいというか」
「いいえ。大丈夫です」
そんなことを気にしていたのか。シエルはばつが悪そうに眉間にしわを寄せる。
(心の優しい方だと分かっているから)
キッチンにそっと顔をだしたマリエが、鼻をクンクンと慣らしている。洗濯籠を持っているので外に干してきたのだろう。
「お疲れさま。いまね、ケーキが焼きあがったところ」
古いオーブンから出した丸型ケーキが、少し焦げ目がついて、香ばしい香りを放っている。
「いい感じ」
「あ、マーマレードですか。それに、林檎のジャム、苺のジャム。たくさん仕込みましたねぇ」
「果物たくさん買っていただいたでしょう。せっかくだから」
マリエはジャムをひとさじ舐めてみて、うっとりと目を閉じた。
「いいお味です」
「ありがとう」
「手伝います」
焼けたケーキを冷ます。林檎ジャムを真ん中、その周りにマーマレードを塗った。上から見ると、艶々した甘い二重丸が乗ったジャムケーキが出来上がった。
「ティータイムにと思って」
「陛下も喜ばれるでしょう」
これを食べた時のシエルの反応を想像して、ノエリアはふっと笑顔になった。
ジャムケーキを作り終えたときにはもう昼間近だった。昼食の準備に入ろうとしたとき、リウがキッチンを訪ねてきた。
「なんとも甘い香りですねぇ」
「ティータイム用のケーキを焼いたんです。あ、昼食はもうすぐです」
「陛下が、昼食はいらないとおっしゃっています。わたしはいただきますが」
「そうですか。ではダイニングでお待ちください。兄もくると思うので」
ヴィリヨはここのところ不思議と体調が良いらしく、部屋ではなくダイニングで食事をし、畑にも行っている。国王が滞在していることで気が張っているのだと思う。
(これで無理がかかって、体調を崩さないといいのだけれど)
準備をし、ダイニングで昼食を皆でとることにした。マリエがヴィリヨに声をかけ、四人での賑やかな昼食となった。
「ノエリア、ケーキを焼いたんだろう? とてもいい匂いがしていた」
ヴィリヨは、顔色もいい様子だった。ノエリアは安心しつつ、無理はしないで欲しいなと思う。
「そうなの。ジャムケーキよ。ティータイムにお兄様も召し上がってね」
「楽しみだ」
「陛下のものは部屋にお持ちください。俺はここでヴィリヨ殿と話がしたいし」
「喜んで」
ヴィリヨとリウは、屋敷にある古い資料や本などで話に花を咲かせているらしい。意気投合しているのだろう。リウはマリエとも仲がいいし、存在をありがたいと思う。
「シエル陛下のお相手は、ノエリア殿にお任せしていいでしょうか」
「は、はい」
ノエリアが返事をすると、リウが片目を瞑った。ノエリアは意図がよく分からず首を傾げた。
食後、部屋でのんびりする時間があり、ノエリアは読みかけの本を手に取って過ごした。そして、髪を整え口紅を塗り直し、鏡の前で笑顔の練習をしてから、ティーセットとケーキを持って、シエルの部屋のドアをノックした。
「ノエリアです」
入りなさい、と声がしたのでドアを開ける。シエルがベッドに起き上って本を読んでいた。
「起きて大丈夫ですか?」
「痛みはまだあるが、動けないほどではない」
具合が悪いようには見えず、順調に回復しているのだろう。とはいえ、数日で傷口が治るわけではないから、包帯交換のときにまた状態を確認しなくては。
「陛下に食べていただきたくて、ケーキを焼きました」
「甘い匂いがしていたな」
テーブルにティーセットとケーキを置く。一人分にカットして持ってきたものをふたつ。
「マーマレードと林檎ジャムのケーキです」
「このジャムも手作り?」
「そうです」
シエルは本を閉じ、テーブルに体を向けた。
「どっちのジャムも美味しく仕込めたので、二色にしてみました。気に入ってくださると嬉しいです」
「……座ったらどうだ?」
シエルが、お茶を淹れてから立ったままケーキの説明をするノエリアに着席を促す。ノエリアが座ると、シエルはケーキにフォークを入れる。そして口に運んだ。ノエリアはその様子を緊張しながら見ていた。
「うん。美味しい」
「よ、よかったです!」
シエルは次々にケーキを口に運んで食べてくれた。そしてお茶も飲む。
「苦みのあるお茶にピッタリだ。とても美味しい」
「ありがとうございます。嬉しい……」
ノエリアもケーキを食べる。ジャムは美味しくできたし、生地もうまく焼けた。シエルが美味しいと食べてくれるのが本当に嬉しかった。
「陛下が昼食を召し上がらなかったので、消化を助ける作用のある薬草茶にしました。あとは香りを楽しむものもお持ちしています」
ティータイムだから、ゆったり過ごして欲しいとのノエリアの気持ちだった。半分ほどケーキを食べて、シエルはフォークを置く。
「先ほどは、すまない」
ノエリアも、話を聞こうと思い手を置く。
「怒っているわけではないのだがこの顔のせいで誤解されやすいというか」
「いいえ。大丈夫です」
そんなことを気にしていたのか。シエルはばつが悪そうに眉間にしわを寄せる。
(心の優しい方だと分かっているから)