国王陛下の庇護欲を煽ったら、愛され王妃になりました
ドンドン、カンカンと釘を打ち付ける。釘を口にくわえ、金槌を振り回す、伯爵令妹ノエリア。まるで腕のいい大工のようだ。
「これでよし」
「お嬢様ぁ。大丈夫ですか?」
「終わったから。マリエ、お茶にしましょう」
「承知しました」
ノエリアは額の汗を拭って空を見上げた。気持ちよく晴れ、青空が美しい。
(この調子なら雨は降らないだろうし、お兄様も体調が良いだろうな)
「畑でミントを摘んでくるね」
工具箱はマリエが仕舞ってくれるというので任せるとする。ノエリアは後片付けをし、畑に向かう。
籠を持って、屋敷の裏手に回る。
ヴィリヨの咳にいいミントと、自分たちで食べる用に育てている野菜を収穫する。春に植えたカボチャがそろそろ良さそうな大きさだったので、二つもいだ。
(カボチャのスープにしようかな。カボチャのクッキーもいい)
カボチャは栄養価も高いし、ヴィリヨの体にもいい。
この辺りは土がよいため、野菜などがよく育つ。色が濃く大きく実った野菜を籠いっぱいに積んで、ノエリアは屋敷に戻る。キッチンにいたマリエに声をかける。
「見て、マリエ。カボチャがこんなに大きく育っていたの。たくさん料理が出来るね。お兄様にもスープが作れる」
目をキラキラさせながら、カボチャを担ぎ上げたノエリアを見て、マリエが微笑む。
「立派な大きさでございますねぇ」
「幸せよね。きっと味も濃くて美味しいはずよ」
「ノエリア様は、なんでも幸せねっておっしゃいますね」
「だって、幸せじゃない?」
にっこり微笑むノエリア。マリエもつられて笑顔になる。
「今朝、森へ行ったときも、緑が美しかったし。そんな景色を見ることができて幸せ。ハギーがそばにいたことも嬉しかったな。カボチャでこうして笑えることも幸せじゃない?」
「ふふ。そうでございますね」
「お兄様にも見せてこようっと」
カボチャをひょいと担ぎ上げ、ノエリアはキッチンを出ていった。
ギシギシ鳴る階段をのぼり、ノエリアはヴィリヨの部屋のドアをノックする。
「お兄様、ノエリアです」
眠っているかもしれないから、少々控えめに声をかけた。
「ああ、お入り」
優しい声が中から聞こえて、ホッとしながらノエリアはドアを開けた。ベッドに腰掛け、テーブルで書類にペンを走らせていたヴィリヨが顔を上げる。
「お兄様。起きていていいの?」
ノエリアと同じ金髪に、日焼けを知らないほっそりとした頬の美形が微笑む。
「今日は咳も無くて体調もいいから、村の薬局に礼状を書いているよ」
体調がいいというのは本当のようだ。皆に心配をかけまいと無理をするところがあるからノエリアは心配だったのだが、ヴィリヨの顔色が良かったので安心した。
「お兄様、見て。こんなに立派なカボチャが収穫できました」
「ノエリア、お前は本当に植物を育てるのがうまいね。お爺様譲りなのだろうな」
「そうかもね。夕食は、体にいいカボチャスープが食べられますよ」
「楽しみにしているよ」
ヴィリヨはペンを置いた。
「ノエリア、在庫を確認したいのだけど」
「はい」
ノエリアは、カボチャを床に置く。
「春収穫のものは少し商品にできそうだったよね」
「乾燥と粉砕のあと、保存してあります。夏のものはまだ収穫前なのだけれど」
答えながら、ノエリアはあれもこれもとやらなくていけないことを思い浮かべた。
「村の薬局と、新規の取引先があれば他の町や王都にも出したいと思うのだけど」
「新規開拓はできても、品薄になっては元も子もないからね……」
ヴィリヨが言いたいことは分かる。薬草栽培の土地と人手が足りないということだ。売りの規模を拡大しても品物が無ければ、それが信用にも関わってくる。
ヒルヴェラで作る薬草の在庫はノエリアの頭の中に入っている。どう考えても村の薬局に納品するだけで手いっぱいだ。
祖父と父が続けてきた薬草事業は完全衰退したわけではなく、ヴィリヨとノエリアの手によって細々と続けられている。本当に細々。首の皮一枚といった具合だ。
「すまないね。苦労をかけて。僕の体が弱いばっかりに」
「ほら、それは言わない約束でしょう。それに、ちょっとくらい人生に苦労と刺激があるほうが、楽しく生活できると思うよ」
貧乏になど負けないんだから。ノエリアは、口には出さなくても、いつもそう思っている。
(弱音を吐いたら、足元から崩れる気がするから)
そう思ったとき、足首に白猫ハギーが体を擦りつけていった。
「冬場は雪に閉ざされるし、できるだけ多く村の薬局に納品できるように準備します」
「無理はしないようにな」
「分かっています」
ヴィリヨは優しい。自分の体を大事にすることを一番に考えて欲しいのに、ノエリアやマリエのことをいつも気にかけている。
「ちょっと休憩しようかな。わたし、壊れた窓をね、修理したの」
ノエリアは得意げに言った。ヴィリヨが目を丸くする。
「ノエリアが修理したのか? トンカンと音がするなと思っていたら……」
「得意だからね。雨が吹き込んだら大変だからいまのうちにと思って」
ヴィリヨが「ありがとう」と微笑んでくれたから、修理の苦労も吹き飛ぶ。
「ミントも摘んできたから、お兄様にもお茶をお持ちするわね」
「ああ、ありがとう」
「これでよし」
「お嬢様ぁ。大丈夫ですか?」
「終わったから。マリエ、お茶にしましょう」
「承知しました」
ノエリアは額の汗を拭って空を見上げた。気持ちよく晴れ、青空が美しい。
(この調子なら雨は降らないだろうし、お兄様も体調が良いだろうな)
「畑でミントを摘んでくるね」
工具箱はマリエが仕舞ってくれるというので任せるとする。ノエリアは後片付けをし、畑に向かう。
籠を持って、屋敷の裏手に回る。
ヴィリヨの咳にいいミントと、自分たちで食べる用に育てている野菜を収穫する。春に植えたカボチャがそろそろ良さそうな大きさだったので、二つもいだ。
(カボチャのスープにしようかな。カボチャのクッキーもいい)
カボチャは栄養価も高いし、ヴィリヨの体にもいい。
この辺りは土がよいため、野菜などがよく育つ。色が濃く大きく実った野菜を籠いっぱいに積んで、ノエリアは屋敷に戻る。キッチンにいたマリエに声をかける。
「見て、マリエ。カボチャがこんなに大きく育っていたの。たくさん料理が出来るね。お兄様にもスープが作れる」
目をキラキラさせながら、カボチャを担ぎ上げたノエリアを見て、マリエが微笑む。
「立派な大きさでございますねぇ」
「幸せよね。きっと味も濃くて美味しいはずよ」
「ノエリア様は、なんでも幸せねっておっしゃいますね」
「だって、幸せじゃない?」
にっこり微笑むノエリア。マリエもつられて笑顔になる。
「今朝、森へ行ったときも、緑が美しかったし。そんな景色を見ることができて幸せ。ハギーがそばにいたことも嬉しかったな。カボチャでこうして笑えることも幸せじゃない?」
「ふふ。そうでございますね」
「お兄様にも見せてこようっと」
カボチャをひょいと担ぎ上げ、ノエリアはキッチンを出ていった。
ギシギシ鳴る階段をのぼり、ノエリアはヴィリヨの部屋のドアをノックする。
「お兄様、ノエリアです」
眠っているかもしれないから、少々控えめに声をかけた。
「ああ、お入り」
優しい声が中から聞こえて、ホッとしながらノエリアはドアを開けた。ベッドに腰掛け、テーブルで書類にペンを走らせていたヴィリヨが顔を上げる。
「お兄様。起きていていいの?」
ノエリアと同じ金髪に、日焼けを知らないほっそりとした頬の美形が微笑む。
「今日は咳も無くて体調もいいから、村の薬局に礼状を書いているよ」
体調がいいというのは本当のようだ。皆に心配をかけまいと無理をするところがあるからノエリアは心配だったのだが、ヴィリヨの顔色が良かったので安心した。
「お兄様、見て。こんなに立派なカボチャが収穫できました」
「ノエリア、お前は本当に植物を育てるのがうまいね。お爺様譲りなのだろうな」
「そうかもね。夕食は、体にいいカボチャスープが食べられますよ」
「楽しみにしているよ」
ヴィリヨはペンを置いた。
「ノエリア、在庫を確認したいのだけど」
「はい」
ノエリアは、カボチャを床に置く。
「春収穫のものは少し商品にできそうだったよね」
「乾燥と粉砕のあと、保存してあります。夏のものはまだ収穫前なのだけれど」
答えながら、ノエリアはあれもこれもとやらなくていけないことを思い浮かべた。
「村の薬局と、新規の取引先があれば他の町や王都にも出したいと思うのだけど」
「新規開拓はできても、品薄になっては元も子もないからね……」
ヴィリヨが言いたいことは分かる。薬草栽培の土地と人手が足りないということだ。売りの規模を拡大しても品物が無ければ、それが信用にも関わってくる。
ヒルヴェラで作る薬草の在庫はノエリアの頭の中に入っている。どう考えても村の薬局に納品するだけで手いっぱいだ。
祖父と父が続けてきた薬草事業は完全衰退したわけではなく、ヴィリヨとノエリアの手によって細々と続けられている。本当に細々。首の皮一枚といった具合だ。
「すまないね。苦労をかけて。僕の体が弱いばっかりに」
「ほら、それは言わない約束でしょう。それに、ちょっとくらい人生に苦労と刺激があるほうが、楽しく生活できると思うよ」
貧乏になど負けないんだから。ノエリアは、口には出さなくても、いつもそう思っている。
(弱音を吐いたら、足元から崩れる気がするから)
そう思ったとき、足首に白猫ハギーが体を擦りつけていった。
「冬場は雪に閉ざされるし、できるだけ多く村の薬局に納品できるように準備します」
「無理はしないようにな」
「分かっています」
ヴィリヨは優しい。自分の体を大事にすることを一番に考えて欲しいのに、ノエリアやマリエのことをいつも気にかけている。
「ちょっと休憩しようかな。わたし、壊れた窓をね、修理したの」
ノエリアは得意げに言った。ヴィリヨが目を丸くする。
「ノエリアが修理したのか? トンカンと音がするなと思っていたら……」
「得意だからね。雨が吹き込んだら大変だからいまのうちにと思って」
ヴィリヨが「ありがとう」と微笑んでくれたから、修理の苦労も吹き飛ぶ。
「ミントも摘んできたから、お兄様にもお茶をお持ちするわね」
「ああ、ありがとう」