国王陛下の庇護欲を煽ったら、愛され王妃になりました
 ヴィリヨもダイニングに降りてきていて、シエルからの品物を受け取り、喜んでいた。

「本当に、こんなにたくさん。ありがとうございます」

 ここ最近は暑さで少々参っていたヴィリヨも、シエルが訪ねて来てくれたので嬉しいのだろう。顔色がいい。

「虚弱にいい薬草が王都の薬局にあって、取り寄せたのです」

「お心遣い、感謝いたします」

「それと、ノエリア殿にも話したのだけれど、晩餐会へ招待したいのです。ヒルヴェラ伯爵令妹として」

「はい。ノエリアに話を聞きました」

 シエルはリウを見て、頷く。変わって、リウが話し始めた。

「当日は迎えを出します。それと、伯爵はお体のこともあるのでいかがいたしましょう。こちらとしては、ご相談してからと思っておりました」

 ノエリアの隣に座るヴィリヨは頷いて、ノエリアの手を握った。

「僕は長旅で疲れが出てしまうので、ノエリアを代表として参加させて構いませんか?」

 これは先ほどヴィリヨとも相談したことだった。暑さもあるし、到着してあちらで倒れるようなことがあっては迷惑をかけてしまう。

「承知しました。では、ノエリア殿に侍女二名をご用意し、当日御者と共にお迎えにあがりますので」

 人手が足りない。ヴィリヨになにかあっては困るので、マリエを屋敷に置きたいというこちらの事情も、言わなくても分かってくれる。

「異議はございません」

 ヴィリヨが言うことにノエリアも頷いた。シエルとリウを信用し、妹を預ける。そういうことだ。
 話がついたところで、あまり引き留めて、暗くなってから森を抜けるのは危険なので、リウが出立の合図をした。
大人数の一隊は、役目を終えて帰っていく。馬上からシエルがノエリアを見下ろす。

「晩餐会で会おう。待っているから」

「はい。陛下、お気をつけて」

 伸ばされた手。その指先だけを掴む。

 以前、王都へ戻る彼を見送ったときは、寂しさで支配された。いまは再会の喜びで満たされる。遠ざかる姿を笑って見送ることができた。

 ◇

 晩餐会前日になると、夜も明けきらぬうちに、派遣された迎えの者たちがヒルヴェラの屋敷を訪ねてきた。晩餐会は明日の夕方からだが、ここから王都へは丸一日かかる。遅れてはいけないので早めに向かわなければいけない。

 ノエリアはもっと早起きをして身支度を整えていなければいけなかった。晩餐会用のドレスは王宮に到着してから着替えると言われたので、贈り物の中からシンプルな外出着を選び、それを着た。シンプルとはいえ、最先端の高価なドレスだ。まるであつらえたようにノエリアによく似合い、彼女をとても美しく見せた。

 晩餐会ドレスは、シエルが選んで送ってくれた青いドレス。髪飾りは銀細工のものが数個。宝石は濃い色のものが多い。ノエリアの髪の色に合わせたのだと思う。ノエリアは母の形見のエメラルドの髪飾りと、シエルが送ってくれた赤い宝石のものを身に着けることに決めた。アクセサリーはシンプルながら薔薇の花を象った華奢なネックレス。それとお揃いの薔薇のイヤリング。

「こんな素敵なもの、見たことありません」

「わたしも身に着けたことがないのよ。マリエ、大丈夫かしら。壊れないかな」

「呼吸をするときは静かになさったほうが宜しいかもしれません」

 笑いながら王宮から来た侍女たちとマリエと、準備をした。

 馬車へ乗り込むとき、ヴィリヨも出てきて見送ってくれた。マリエが目を細める。

「本当にお美しい。目がくらみます」

「朝日のせいじゃないの」

「そのドレスも、とてもお似合いですよ」

「ありがとう。そうね。外出着とはいえ、とても素敵よね」

 晩餐会用のドレスとはまた違った感じだけれど、ウキウキと心躍る。

「本当に、美しいよ。さすが僕の妹だ。晩餐会用のドレスを着たらもっと美しいだろうな。シエル陛下も見とれるに違いない」

 ヴィリヨが腕を組んで頷く。

「楽しんでおいで」

「ありがとう。お兄様……。マリエ、不在のあいだ、宜しくお願いします」

「任せてください。なにも心配ございませんよ」

 国王主催の晩餐会に招かれるなど、想像もしなかった人生だ。ましてや社交界デビューもしていない、名ばかりの貧乏貴族。このような豪奢なドレスに身を包み、華やかな場所に行くなど、生まれて初めて。ヒルヴェラ家代表として参加するのだから、しっかりしないと。

 軽快に走り出した馬車から、ヴィリヨとマリエに手を振る。

(とにかく。シエル陛下の招待なのだから、粗相だけはしないようにしよう)

 王宮までの道のりは長い。しかし馬車はさすが乗り心地がよく、しかも四頭引きで早い。寝不足だったノエリアはいつの間にか眠ってしまった。


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