国王陛下の庇護欲を煽ったら、愛され王妃になりました
最初に案内していた通り、森の道を行き、小道に入る。ノエリアが山草を取りに行く場所からもう少し先に行ったところだ。綺麗な場所なのだけれど、人の手が入らず森の深い場所にあるので、ヴィリヨがひとりでいくなと心配する。だから頻繁には行かない。行ってもすぐ戻るようにしている。
「このあたり、きみはひとりで歩いて行くのか?」
ゆったりと進みながら、シエルが問いかけてきた。
「そうです。気分転換にもなるし、山草を見ながらの散策は楽しいです」
「危険じゃないかな。よくもこんな」
「平気ですよ。こんな山奥に来るなんて、よほどの物好き……」
「俺のことか?」
ノエリアは口を押える。そのあとあまりにおかしくてふたりで声を出して笑った。
「物好きなのかもな。ああ、こんなに大声で笑ったのは久しぶりだ」
「わたしも。あ、シエル様。目的地はもうすぐですよ。あの色黒の大木が目印です」
シエルも理解したらしく、馬のスピードを上げた。
来た人間でなければ分からない、鬱蒼と生い茂る草木を抜けたところに広がる空間に辿り着いた。
「ここです。シエル様に見せたい場所」
あるのは獣道。空間は寝転んだ場所なのだろうか。シエルとノエリアは、馬から静かに降り立った。
天気が良い日でなかったら、この色は見られない。
深い緑と薄い緑。苔むした多くの石が不思議な緑色に光っている。その光の源は、小さい沢。その水源をもとに草花が生い茂っている。大木と、若い木。張りのある葉を茂らせる草。食べられるものとそうでないもの。葉の合間を縫って差し込む太陽の光は、木々と草花の中に立つシエルとノエリアも照らした。
ふたりはしばし、言葉を失った。沢の音、風で葉がこすれる音。自分の呼吸音と、隣に立つ人間の鼓動と、呼吸、全部を感じることができる。
「……美しいな。こんな景色、見たことが無い」
「でしょう。ここをシエル様に見せたかったのです」
(見せたかった。シエル様と一緒に見たかった)
今日は最高だ、朝方、少し雨が降って、晴れて、水蒸気が出る。それに緑が包まれる。崖下に小さな沢があるのだけれど、そこからの水蒸気がプラスされて、なんともいえない空気感が出るのだ。
「いろんな条件があるんです。今日は、最高です。シエル様がいるからかしら」
ノエリアは、深呼吸をした。空気が美味しい。
「きみの言葉を引用するなら、人間も、いろんな条件があると思わないか」
「……そうですね」
「素直になるのには」
シエルの言葉が続くのかと思ったけれど、風が葉を擦る音が先だった。
「森の音が、大きい」
ひとり言だった。誰かに聞かせるつもりではなかった。風を感じて、音を聞き、匂いを嗅ぐ。その中でノエリアは、手にひとつの温もりを感じた。
シエルがノエリアの手を取っている。だから、ノエリアも握り返した。
「太陽の下は暑いのに、ここは風が涼しいな」
「そうですね。寒いくらい。……そろそろ戻りましょうか」
馬のぺルラのもとへ戻り、来た時のように二人乗りをする。そして、緑の空間から抜け出した。
抜けだしたと、思った。
衝撃とペルラの大きな鳴き声で、目の前に火花が飛んだ。シエルの背中を抱きしめていたはずなのに、天地がひっくり返った。
「このあたり、きみはひとりで歩いて行くのか?」
ゆったりと進みながら、シエルが問いかけてきた。
「そうです。気分転換にもなるし、山草を見ながらの散策は楽しいです」
「危険じゃないかな。よくもこんな」
「平気ですよ。こんな山奥に来るなんて、よほどの物好き……」
「俺のことか?」
ノエリアは口を押える。そのあとあまりにおかしくてふたりで声を出して笑った。
「物好きなのかもな。ああ、こんなに大声で笑ったのは久しぶりだ」
「わたしも。あ、シエル様。目的地はもうすぐですよ。あの色黒の大木が目印です」
シエルも理解したらしく、馬のスピードを上げた。
来た人間でなければ分からない、鬱蒼と生い茂る草木を抜けたところに広がる空間に辿り着いた。
「ここです。シエル様に見せたい場所」
あるのは獣道。空間は寝転んだ場所なのだろうか。シエルとノエリアは、馬から静かに降り立った。
天気が良い日でなかったら、この色は見られない。
深い緑と薄い緑。苔むした多くの石が不思議な緑色に光っている。その光の源は、小さい沢。その水源をもとに草花が生い茂っている。大木と、若い木。張りのある葉を茂らせる草。食べられるものとそうでないもの。葉の合間を縫って差し込む太陽の光は、木々と草花の中に立つシエルとノエリアも照らした。
ふたりはしばし、言葉を失った。沢の音、風で葉がこすれる音。自分の呼吸音と、隣に立つ人間の鼓動と、呼吸、全部を感じることができる。
「……美しいな。こんな景色、見たことが無い」
「でしょう。ここをシエル様に見せたかったのです」
(見せたかった。シエル様と一緒に見たかった)
今日は最高だ、朝方、少し雨が降って、晴れて、水蒸気が出る。それに緑が包まれる。崖下に小さな沢があるのだけれど、そこからの水蒸気がプラスされて、なんともいえない空気感が出るのだ。
「いろんな条件があるんです。今日は、最高です。シエル様がいるからかしら」
ノエリアは、深呼吸をした。空気が美味しい。
「きみの言葉を引用するなら、人間も、いろんな条件があると思わないか」
「……そうですね」
「素直になるのには」
シエルの言葉が続くのかと思ったけれど、風が葉を擦る音が先だった。
「森の音が、大きい」
ひとり言だった。誰かに聞かせるつもりではなかった。風を感じて、音を聞き、匂いを嗅ぐ。その中でノエリアは、手にひとつの温もりを感じた。
シエルがノエリアの手を取っている。だから、ノエリアも握り返した。
「太陽の下は暑いのに、ここは風が涼しいな」
「そうですね。寒いくらい。……そろそろ戻りましょうか」
馬のぺルラのもとへ戻り、来た時のように二人乗りをする。そして、緑の空間から抜け出した。
抜けだしたと、思った。
衝撃とペルラの大きな鳴き声で、目の前に火花が飛んだ。シエルの背中を抱きしめていたはずなのに、天地がひっくり返った。