国王陛下の庇護欲を煽ったら、愛され王妃になりました
「……俺は、そう簡単には死なないぞ」
「武器も持たず、女をかばい、なにができるのですか……!」
言い終わらないうち、サイル騎士団長はぐんと伸びあがり、剣を抜いて襲い掛かってきた。そのときシエルがノエリアを抱きしめた。サイルに背中を向けるようになってしまう。
(そんな、それではシエル様が……!)
「やめてぇ!」
「ぐああ!」
ぎゅっと目を閉じた。ノエリアの叫びが誰かの悲鳴に重なった。
誰だ? まさか、シエルだろうか? ノエリアを抱く腕がゆっくり解かれていく。ドサリと倒れたのは、なんだ。
「陛下ぁ! シエル様! ノエリア殿!」
聞き覚えのある声が響いた。
「リウ! ここだ!」
シエルの声が答える。ゆっくり目を開けると、頬を温かい手が包んだ。
「ノエリア、無事でよかった」
「シエル様……」
足元に倒れているのはサイル。背中に矢が刺さっている。ノエリアはぞっとしてその場に崩れ落ちそうになった。
「おい、大丈夫か」
「こ、腰が抜けました」
「シエル様! ノエリア殿ぉ!」
リウが叫びながら、斜面を滑り降りてきた。
「リウ様!」
「ああー! 無事で良かった! おい、みんないたぞ!」
リウがそう声をかけると、斜面を次々に男たちが降りてくる。騎士団の者たちだった。
「わぁ、陛下ぁ!」
「間に合って良かった」
「やったな! 陛下は無事だ」
口々に喜びを叫ぶ騎士団員たち。シエルが言っていた送迎隊の皆なのだろう。
「倒れているこれは、縄をかけ運び出せ!」
リウが指示を出す。近くの騎士団員がしゃがんでサイルを覗き込んでいた。
「死んでいますかね?」
「いや、急所は外した。衝撃で気を失っているだけだろう。手当てして連れて帰る」
「上で取り押さえている奴と一緒に、ですね」
「そうだ。そして罪を償わせる」
体を縄でぐるりと巻いて引きずり起されたサイルは泥だらけの顔のまま運ばれていった。
リウがシエルと抱き合う。リウの目に光るものがあるのをノエリアは見た。
「申し訳ございません。お供するべきでした」
「いいんだ。助けに来てくれてありがとう」
「リウ様。ありがとうございます」
黙ってリウは目を閉じた。そして、自分の気持ちが落ち着いたのか、報告を受けたことと調査したことを話してくれた。
「半年ほど前から、サイル騎士団長が不穏な動きを見せていると騎士団員から報告がありまして。大規模国境警備の前だったのでしばらく様子を見ようと思っていたのです」
「そうだったのか……。俺も気付くことができなかったが」
「あとで吐かせますが、山賊による陛下襲撃も、実際にはサイル騎士団長が仕組んだことです」
シエルは黙ってリウの話を聞いていた。大規模国境警備だけでなく、今回のこともサイルが企てたことだという。ヒルヴェラの屋敷に陛下を送り届けたあと、サイル騎士団長の姿が見えないと、皆がここへ戻って来た。あろうことか、そのときシエルとノエリアのふたりだけで森に出かけていた。悪いことが重なってしまったのだ。
「そう言えばさっき、上で取り押さえている奴がいるといったが、共犯者か?」
「はい。移動しながらお話します。よろしいですか?」
道に通じる方向へ案内されながらリウが語ってくれたのは驚くべきことだった。
「サイル騎士団長……いえ、サイルは、王宮内に同じ目的を持つものを増やそうとしていました。もちろん金がかかることもあり、それの援助をしていたのが」
リウはそこで言葉を切った。
「……スタイノ公爵です」
「なんだと」
「そしてノエリア殿、ここからはノエリア殿にも関係することです」
まさか自分が出てくるとは思わず、ノエリアは驚いた。
「もう少し歩くと、馬を待たせてあります。そこまでがんばってください。そして、屋敷までそのスタイノ公爵もサイルも連れていきます。ノエリア殿。ヴィリヨ殿と一緒に、彼が犯した罪を……」
リウは言葉を濁したが、ノエリアは頷いた。
「はい。分かりました」
聞かねばならない。負の繋がりは切らなければいけない。
(終わらせたい。自分のことだけじゃなく、ヒルヴェラのため、悲しんで苦しんできたシエル様のためにも)
ノエリアの決意を知ってか、シエルはノエリアの肩を強く抱いてくれた。
「武器も持たず、女をかばい、なにができるのですか……!」
言い終わらないうち、サイル騎士団長はぐんと伸びあがり、剣を抜いて襲い掛かってきた。そのときシエルがノエリアを抱きしめた。サイルに背中を向けるようになってしまう。
(そんな、それではシエル様が……!)
「やめてぇ!」
「ぐああ!」
ぎゅっと目を閉じた。ノエリアの叫びが誰かの悲鳴に重なった。
誰だ? まさか、シエルだろうか? ノエリアを抱く腕がゆっくり解かれていく。ドサリと倒れたのは、なんだ。
「陛下ぁ! シエル様! ノエリア殿!」
聞き覚えのある声が響いた。
「リウ! ここだ!」
シエルの声が答える。ゆっくり目を開けると、頬を温かい手が包んだ。
「ノエリア、無事でよかった」
「シエル様……」
足元に倒れているのはサイル。背中に矢が刺さっている。ノエリアはぞっとしてその場に崩れ落ちそうになった。
「おい、大丈夫か」
「こ、腰が抜けました」
「シエル様! ノエリア殿ぉ!」
リウが叫びながら、斜面を滑り降りてきた。
「リウ様!」
「ああー! 無事で良かった! おい、みんないたぞ!」
リウがそう声をかけると、斜面を次々に男たちが降りてくる。騎士団の者たちだった。
「わぁ、陛下ぁ!」
「間に合って良かった」
「やったな! 陛下は無事だ」
口々に喜びを叫ぶ騎士団員たち。シエルが言っていた送迎隊の皆なのだろう。
「倒れているこれは、縄をかけ運び出せ!」
リウが指示を出す。近くの騎士団員がしゃがんでサイルを覗き込んでいた。
「死んでいますかね?」
「いや、急所は外した。衝撃で気を失っているだけだろう。手当てして連れて帰る」
「上で取り押さえている奴と一緒に、ですね」
「そうだ。そして罪を償わせる」
体を縄でぐるりと巻いて引きずり起されたサイルは泥だらけの顔のまま運ばれていった。
リウがシエルと抱き合う。リウの目に光るものがあるのをノエリアは見た。
「申し訳ございません。お供するべきでした」
「いいんだ。助けに来てくれてありがとう」
「リウ様。ありがとうございます」
黙ってリウは目を閉じた。そして、自分の気持ちが落ち着いたのか、報告を受けたことと調査したことを話してくれた。
「半年ほど前から、サイル騎士団長が不穏な動きを見せていると騎士団員から報告がありまして。大規模国境警備の前だったのでしばらく様子を見ようと思っていたのです」
「そうだったのか……。俺も気付くことができなかったが」
「あとで吐かせますが、山賊による陛下襲撃も、実際にはサイル騎士団長が仕組んだことです」
シエルは黙ってリウの話を聞いていた。大規模国境警備だけでなく、今回のこともサイルが企てたことだという。ヒルヴェラの屋敷に陛下を送り届けたあと、サイル騎士団長の姿が見えないと、皆がここへ戻って来た。あろうことか、そのときシエルとノエリアのふたりだけで森に出かけていた。悪いことが重なってしまったのだ。
「そう言えばさっき、上で取り押さえている奴がいるといったが、共犯者か?」
「はい。移動しながらお話します。よろしいですか?」
道に通じる方向へ案内されながらリウが語ってくれたのは驚くべきことだった。
「サイル騎士団長……いえ、サイルは、王宮内に同じ目的を持つものを増やそうとしていました。もちろん金がかかることもあり、それの援助をしていたのが」
リウはそこで言葉を切った。
「……スタイノ公爵です」
「なんだと」
「そしてノエリア殿、ここからはノエリア殿にも関係することです」
まさか自分が出てくるとは思わず、ノエリアは驚いた。
「もう少し歩くと、馬を待たせてあります。そこまでがんばってください。そして、屋敷までそのスタイノ公爵もサイルも連れていきます。ノエリア殿。ヴィリヨ殿と一緒に、彼が犯した罪を……」
リウは言葉を濁したが、ノエリアは頷いた。
「はい。分かりました」
聞かねばならない。負の繋がりは切らなければいけない。
(終わらせたい。自分のことだけじゃなく、ヒルヴェラのため、悲しんで苦しんできたシエル様のためにも)
ノエリアの決意を知ってか、シエルはノエリアの肩を強く抱いてくれた。