脱出可能枠は一つだけ
「結月ちゃ・・・・・・」

最期の言葉を聞かず、聖歌はあたしの目の前で消えた

手が空を切り、力なく落ちる

「うそ・・・・・・」

聖歌が、消えた

消えた。消えた消えた

あたしの、せいだ・・・・・・

無理を強いてでも、あたしがあの時聖歌と手を繋いでいれば良かったのに・・・・・・

「羽田さん!」

「ふえ?」

突然、俯いていた顔の上から、怒号が聞こえた

そろりそろりと顔を上げると、そこには愛佳の厳しい顔があった

「なにを落ち込んでいるの?すぐに走り出しなさい!」

「え・・・・・・でも・・・・・・・・・」

「でもじゃないわ!過去を振り返って悔やむより、今を見なさい!」

有無を言わさない、愛佳の声

女王様を思わせる威厳

それは、嫌でもあたしを奮い立たせるきっかけになった

「うん、わかった!」

「いいわ!」

愛佳はあたしの横をすり抜けて、行ってしまった

「愛佳、ありがとう・・・・・・」




「はあ・・・・・・はあ・・・・・・・・・ふぅ」

い、息が切れた・・・・・・

今、なんとか男の子を振り切れた

疲れた〜・・・・・・

あれから十分が経過した

捕まったのは、聖歌と拓海

残りは、あたし、美月、愛佳、そして聖夜の四人となった

「ここで一休み・・・・・・」

体育館の裏側の、少し肌寒い北側にきた

一応、ここグラウンドだよね?

ここなら、日中でも人は来ない。夏には読書を楽しむ子がいるくらいだ

ここならバレないかな・・・・・・

「はぁ・・・・・・」

何とか息を整え、グラウンドにでた

そこで見たのは───

愛佳が、鬼に追いかけられているところだった

「っっ・・・・・・!」

もう、追いつかれていた

救いようのない程の距離

そして、一瞬だけ

電灯に照らされた目が、あたしを捉えた

どう思ったかはわからない。けど

小さく、笑みを浮かべて

口を動かした

その直後

鬼の手が愛佳に触れ
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