Home * Love 〜始まりは、キス〜






ドアを開けると、
大家の市川さんが
眉間にしわを寄せて
浮かない表情で玄関前に
立っていた。


「こんにちは…
どうか…されましたか?」


ドクン─────

心拍数が上がる私。


とても嫌な予感がするよ。


「時原さん…………実はね。

205号室の梅田さんが……
今日付けで
このアパートを出ていくの。」

市川さんは
ドアのハンドルを握っている
私の手の上に自分の手をのせる。



私は一瞬にして、
頭の中が真っ白になり
何も考えられなくなった。



「…………………っ」


悔しさと、やりきれなさと、

自分に素直になれなかった事へと苛立ち。


様々な想いが一気に押し寄せる。


震える唇をきゅっと結んだ。


このまま離ればなれになるのは嫌だよ。

自分の気持ち、伝えてないし。

梅田さんの気持ちも、
よく分からないまま。


今、伝えないとダメなんだ…!



「やっぱり、知らなかった?」

市川さんの問いかけに
私は小さく頷いてから言った。

「市川さん………
梅田さんが今、
どこにいるか分かりますか!?」





「駐車場で、荷物を積んでいる所だと思うけど。

もう、終わってるかもね。」

視線を上に移動し、
考えながら答える市川さん。


「あ、ありがとうございます!」



駐車場に行ってたら
間に合わないかもしれない。


私は、その場に市川さんを残し

急いでベランダに向かった。



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