神様、どれほど償えば この恋は許されるのでしょうか?
時を同じくして、2階検査室から悲鳴が上がる。
「ぇぇえええっ~~~~!! 梨佳ちゃん、大河君と付き合ってなかったのぉおおっ!?」
「しーっ、しーっ!加奈子さんってば!声が大きいよっ」
ギロリ……
検査技師が無言でにらむと、長椅子に座っていた二人は、寄り添うように小さくなった。
次の患者を呼び込んで、技師が検査室のカーテンの奥に戻っていく。
「でっ?でっ?その告ってきたコに返事はしたの?」
「断ったよ…」
「だよねぇ~これで他の男と付き合われたんじゃ、大河の立場ないわ!」
胸の前で腕を組み、うんうんと大げさに頷いてみせる。
「で?そっちを断ったってコトは、大河と付き合うことに決めたんだ?告白されたんでしょ?」
「え?…な…何で知ってるの?」
「知るわけないでしょ!カンよカン!マジで?ついに告ったの?大河やるぅ~!!」
「つ、つきあわな…ぃ」
グイっ!
言葉が終わる前に、加奈子は両手で梨佳の頬を挟みこむと、真剣な顔を近づける。
「大河のこと、めちゃくちゃ好きなくせに、なに言ってるのよ」
その相変わらずのストレートぶりに、つい、梨佳が思わず微笑む。
……が、加奈子の両手がそれを許さない。
「笑う所じゃぁないのよ、梨佳ちゃん」
この4月まで梨佳が入院していた小児科病棟の看護師だった加奈子にとって、
今までどんなふうに、梨佳が大切なものを諦めてきたのか、手の内はわかっている。
言い聞かせるように、相手にだけでなく自分にまで嘘をつく。
微笑みながら。
だから、顔に張り付いたような笑顔で、
心にもない嘘を梨佳に言わせちゃいけない。
「……だって…いつ死ぬかわかんないのに」
「みんな同じよ」
「私は違う」
「同じよ」
「……」
返事の代わりに、頬にあてられた加奈子の手の上に自分の手を添えると、
梨佳はそのままそっと加奈子の手を握り、引き下げた。
梨佳の膝の上で、握り合ったお互いの手に力がこもる。