神様、どれほど償えば この恋は許されるのでしょうか?
おそらく、今は順調。
でも、移植後、予断を許さない状況に変わりはない。
心臓移植の生存率はかなり良くなっているし、1年生存率は90パーセント近くある。
3年生存率はやや下がるが、それでも以前に比べればかなり高い。
そして、5年、10年……その値は下がり続ける。
梨佳にとって生きるということは、この生存率を更新し続けていくことに他ならない。
梨佳の言わんとすることは、看護師の加奈子だって十分すぎるほどわかっている。
よほどのことが大河にないかぎり、先に死ぬのは梨佳のほうなのだ。
そんな頼りない自分の命に、未来のある大河をこれ以上縛り付けたくない。
梨佳の気持ちはよくわかる。
「今日もねぇ、午後の授業早退して病院についてきてくれてるんだぁ…受験生のクセして」
「うん」
「ひとりで行くって、言ったんだけど……」
「ダメだろうね~」
「あはは……」
梨佳は、力なく笑うと、
「…う~ん、これ以上、大河の足を引っ張りたくないなぁ~……」
口元に笑みを残したまま、伏し目がちに足元を見る。
真新しい皮のローファーが、明るめの蛍光灯にツヤツヤと照らし出されている。
ほんの少し前まで、視線の先に見えていたのは、愛用の赤いギンガムチェックのスリッパだった。
軽く足を振り下ろすと、靴のかかとが床の上に弾かれて鳴る。
コツッ…
足にまったく馴染まない振動。
履いているだけで靴擦れしそうな違和感。
このまま歩いて行けそうな気が到底しなくて、
それは同時に、再び靴を脱ぎ病院に戻ってくることを、梨佳に予感させた。