神様、どれほど償えば この恋は許されるのでしょうか?
「じゃぁ、結城さん中に入って」
梨佳が検査室の奥にその姿を消したあとも、加奈子は検査室の長いすに腰掛けたまま動けないでいた。
他の人と全く同じとまではいかなくても、今まで我慢してきた多くの事を、
諦めてしまった事のひとつでも、その手に取り戻して欲しかったのに。
梨佳はそれを頑なにしようとしない。
「はぁあああ~…」
加奈子は深いため息をつきながら頬杖をついた。
午後の4時もまわると、さすがに外来は患者が少ない。
先ほどの検査技師が、仕事に戻れと一瞥する。
「…ハゲめっ」
まあ何という悪態ぶりだ。
自分にはどうすることもできないと、わかっているだけに腹が立つ。
考えたところで、所詮答えは決まっている。
そして、そんな加奈子の気分をさらに逆なでするように、“答え”がのんきに声をかけてきた。
「怖ぇ~、伊藤さん」
「……」
やさぐれた様子で顔を上げると、予想通り大河が立っている。
もともと人目を引くキレイな顔立ちの子だったが、ここ1、2年で身長も伸びた。
180センチはある。
こうして改めて見ると、なんともまあカッコいい男に育ったものだ。
姿だけでなく中身までもなんて、そうそういない。
加奈子は同じ年頃の親戚の男の子を思い出し、すわった目をさらに細めた。
――実際、大河はよくやっている。
徐々に悪化していく梨佳の病状は、回復の兆しをみせなかった。
特に彼女の場合、内科的治療の効果が薄く、早期から心臓移植が視野に入れられていた。
ただ、時だけが無駄に過ぎていく。
ドナーなどそうそうみつかるものじゃない。
一時退院も、外出も出来なくなって、
気がつけば梨佳は、病院どころか病室からも一歩も出られなくなっていた。
――もし…自分の好きな人が余命を宣告されるような病に犯されたら……
その想像に加奈子は身震いする。
日に日に弱り、動けなくなっていく想い人を、
助ける術のないまま、何年も、何年もそばにいて見守りつづける。
その絶望。
目の前の高校生は耐えてみせたのだ。
これ以上、彼にもっとしっかりしろというのは酷だろう。
そんなことは、わかっている。
わかっちゃいるけど、腹が立つ。